ロザン・菅広文インタビュー「芸人でいる理由は2人でずっと喋っていたいから。40代はこんな素直さでラクになれる」『京大中年』発売中!
執筆者:GLOW編集部
お笑いコンビ・ロザンの菅 広文さんの累計35万部を誇る『京大芸人』シリーズの最新刊『京大中年』が6月に発売されました。『京大芸人』『京大少年』に続く今作は、過去の宇治原さんと自分に宛てた手紙として紡ぐ方式で描かれた作品。ロザンのお二人が今まで生きてきた秘訣が20代、30代、40代という世代別で解き明かされた作品にはユニークな教訓も満載。小説に込められた思いやGLOW読者と同世代の菅さんの今の思いを語っていただきました。
二人がずっと喋れる環境を作りたい
その思いで紡いでいく芸人人生
――『京大芸人』『京大少年』を出版した頃から、『京大中年』の構想はありましたか?
「当時は、ありませんでした。2作めの『京大少年』を出してから14年。『京大芸人』『京大少年』では、勉強法なども書かせて頂いたこともあって、次は仕事術的なものを書きたいなと漠然と思っていて。ただ、30代ではまだ早いなと思っていて、40代中盤になった今がちょうどいい年齢かなと思って今回、書かせていただきました」
――46歳になった菅さんが過去の宇治原さんや自分へ手紙を送るという形式で書かれていますが、この表現方法にした理由は?
「僕は『京大芸人』まで本を書いたことがなかったんですが、そのときに出版社の方から『最後まで書き切ってください』って言われたんです。みんな途中までだったら書けるけれど、最後までって実は難しい。その言葉がずっと胸に残っていて、今回、20代から40代までを書き切るにはどういう技法を使えばいいのかを考えて思いついたのが『手紙』という形式だったんです」
芸人の世界には正解が存在しません。だからあなたが大切にしている教科書と呼ばれるものも存在しません。なぜかわかりますか? 「芸人として売れるには?」の答えが千差万別だからです。とある先輩は「○○はすべきである」と言う。また違う先輩は「○○はすべきでない」と言う。○○は同じなのに。しかも「何を持って売れたとするか」の明確な線引きも存在しません。つまり教科書の作りようがないのです。(『京大中年』より)
――相方・宇治原さんに宛てた手紙の中には、彼の人間性がわかるエピソードが満載でしたが、後悔や反省ではなく、その人柄をどう生かしてどう伸ばしていったかに言及されていたのが印象的でした。菅さんにとって宇治原さんはどういう存在ですか?
「出会った高校時代から関係性は変わっていなくて。その頃もめちゃくちゃずっと一緒にいたわけではないんです。こういうときはこの人、というように僕の中にはいくつかのすみ分けがあっって、その頃のまま、今も一緒にいます。ただ、ずっとすごい人だとは思っている。頭の出来が普通の人とは違うんだなっていうのがあって」
――宇治原さんに『こうしたらもっと面白くなるのではないか』というアドバイスをすることもなく宇治原さんの生態を観察している視点で描かれていることも興味深かったです。
「宇治原さんのコメントで炎上することも、そのあらましを聞いて『(人として)違うな』と思ったら何か言いますが、そうは思わなかったので何も言うことはありませんね。炎上で声を上げているのは、ごく少数なことも少なくない。だからそういう助言はお互いせずに来たコンビなんです。失敗しても面白ければいい世界でもあるので」
――これからも「2人が仲良くずっと喋ることができるような環境を作り続けたい」と本の中で語っている菅さんですが、宇治原さんの魅力は?
「彼の道徳心ですかね。賢い人って論理的なことはすぐに思いつくんです。ただ、これは言ってもいいけれどこれは言ったらあかんということがあって、それが道徳的に正しいかどうかという線引きがちゃんとできている人だと思うんですね。その温度感が一緒だからこそ、ずっと一緒にいられるんじゃないかなとおもいます」
――菅さんはロザンのネタ執筆担当であると書いていましたが、同時にロザンの戦略作りもされていると感じます。中年になった今、ロザンの強みはなんでしょうか?
「仲が悪くなることはないということ。今まで言い合いになったことはないですし。宇治原がプライベートでなにかイライラしているのかなと感じても、僕に対してイライラしたこともないし僕が宇治原さんに対してイライラすることもないです」
子どものためではなく
家族みんなが並列の関係でいたい
――著書の中では宇治原さんのご両親に宛てた手紙もありました。菅さん自身も2021年に第一子がご誕生し父親になられましたが、ご自身はイクメンだと思いますか?
「僕の場合は40代になってから子どもができたので、今の状況だとイクメンの部類に入ると思うんです。ただ、若かった頃に子どもができていたら多分イクメンにはなれなかったと思います」
――高齢パパだからこそ。
「40代中盤はがむしゃらに仕事に向き合っていた20代、30代とは時間の使い方が全然違う。特に僕らの仕事って求められてようやく仕事が発生するから時間のコントロールが全くできなかったんです。今はその頃とは働き方が変わってきて、自分の時間を作ることができるので、育児にも参加できていると思います」
――結婚や子育ても時間が作れる今だからこそしようと思ったということですか?
「正直、それもありました。ただ、僕の仕事の場合はそれが可能だっただけで、みんなそういう選択をするのは難しいと思いますけれど。子どもも好きです。だから、オムツも替えるし(保育園の)送り迎えもするし、一通りはやっています。妻に家事を任せることが多くて、育児もしてくれているので僕の割合は少ないです。ただ、子供の寝かしつけと遊ぶのが上手なので結構、重宝されています(笑)
――お話を聞いていると、コンビでも家族という間柄においても「長所を伸ばしていく」という考え方が生かされている印象です。
「僕の考えなのですが、家族において子どもが一番ではなく、妻も子どもも僕も並列なんです。子どものために何かを犠牲にすることはしたくない。子どもはまだ物心もついていない年齢だから大人が我慢する状況はありますけどね」
――自分を犠牲にすることで後々、恩を着せてしまうことにもなりかねないですしね。
「例えば動物園に行くのも子どもを連れて行ってあげようではなく、妻も自分も動物園で楽しめるスタンスでありたいと思っていますし、妻にもそういう話はしています」
自問自答を繰り返しカッコつけを
削ぎ落としたところに目的がある
――菅さんは今、46歳。ご自身の中で40代のイメージはありましたか?
「GLOWの読者の方もだと思うんですけれど、自分の親と比較したりするじゃないですか。そうすると、こんなに幼いんかって思いますよね。だから親も無理してたんやろなって思うんです。きっと僕らの前では親の仮面を被っていたんやろなって。実は会社の同僚と飲みに行ったりすると、しょうもない話をしていたんだろうなと思いますね。まさか大人になって『ゼルダの伝説』をやっているとは思っていなかった(笑)。昔の親はゲームなんてやっていませんでしたよね。それが分かる世代になったことで親への感謝も生まれました」
後輩にアドバイスを求められると、僕は決まってこういうようにした。「俺の経験ではこうやったほうがいいと思うけど、色々な先輩に聞いた方がいいよ」もちろん、こちらも後輩に寄り添い、後輩ができそうなことできなそうなこと、またやった方がいいこと、やらない方がいいことを考えてアドバイスするようにしている。ただ実際に自分たちとは違うので、アドバイスがバシッと合うかどうかわからなかった。そんな経験を20、30代と繰り返してきてたどり着いた答え。【アドバイスを受ける人間は、信頼できる少人数に絞った方がいい】(『京大中年』より)
――GLOW世代は家事や育児もしつつ、仕事では上司も後輩もいるちょうど間に挟まれている人が多いのですが、そういう人たちが仕事でモチベーションを保つためのアドバイスをお願いします。
「(自分が)後輩である部分もあり、自分の後輩にとっては先輩の一面もあるという時期ですが、いつか自分が後輩である側面はなくなります。だから、後輩力が高くて、上から可愛がられるのはいいことだけれど、いつまでも続くことではないとわかっておいた方がいい。後輩力を持ちつつ、先輩力を磨いておくことが大切だと思います。20代の頃って怒られることが多いけれど40代になると怒られなくなってくる。そうなると自問自答しかなくて、それができるかどうかが今後に繋がっていくと思います」
――自問自答の中でコンビとして「これからもずっと2人がずっと喋れる環境を整える」という目標を見つけたと同様、私達も、なにか明確な目標や目的を見つけることが大切だと?
「そうですね。僕らはなにか始めたときにそれぞれ思っていたことがあるはずなのですが、周りの人に話していくうちに『いい言葉』に変換する瞬間があると思うんです。そうしたくなるのが30代で、40代中盤になったら、最初に感じたことでいいんじゃないかって。なんで働いているの?という問いかけに『お金欲しいのよ』とか『家、大変やねん』って言えるかどうかが大切。つまり、自問自答するということはカッコつけたい自分を削ぎ落としていくことだ。そうすることで、より楽になっていく。僕らの『二人でずっと喋っていたい』ってちょっとかっこ悪いじゃないですか(笑)」
――最近の宇治原さんは物忘れが多いということが書かれていましたが、これから先、更年期なども含め、加齢の問題にも直面してきます。ご自身は加齢の変化をどう受け止め進んでいこうと考えていますか?
「今も体調が万全な日ってもうなかったりしますよね。どこか痛いとか、いつもパズルのピースがひとつ足りない状態です。今日はココが足りへんのかいっていうね。それを受け入れていく作業だと思います」
――菅さん自身の展望がありましたら教えてください。
「15年後に『京大老人』もしくは『京大終活』が書けるような芸人人生を歩みたいと思います」
『京大中年』菅 広文著 1760円(幻冬舎)
「少年」だった二人は「芸人」となって人気者になり、今は中年に。ロザンはどのように今の場所へたどり着いたのか。46歳になった菅が過去の宇治原と自分へ手紙を出す。過去と現在をつなぐ手紙を通して明らかにされるのは、”京大芸人式“の思考と仕事術。「好きな人との好きな仕事を続けていくには何が必要か、これからどう生きるべきか」の本質を笑いとともに学べる傑作小説。
PROFILE
すが・ひろふみ:1976年10月29日、大阪府高石市生まれ。大阪府立大学(現大阪公立大学)経済学部進学。96年8月、高校時代の友人である宇治原史規(京都大学法学部卒業)と「ロザン」(吉本興業所属)を結成。『京大芸人』『京大少年』『京大芸人式日本史』『京大芸人式 身の丈にあった勉強法』など「京大芸人」シリーズは累計35万部の大ヒットをしているほか、『菅ちゃん英語で道案内しよッ!』や、宇治原との共著『京大 芸人 ノート』も話題に。デビュー当時から舞台やテレビで活躍し、さらにYouTube、講演など、活躍の場を広げている。
撮影=村松巨規 取材・文=佐藤玲美
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