【観るべき映画】目が覚めると戦時中の1945年、初めての恋をする『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』12/8公開 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】
執筆者:伊藤さとり
映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は、12月8日公開の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。原作は汐見夏衛さんの大ヒット小説。
現代の女子高生が時を超え、特攻隊員に恋をする
「どうやったら戦争の悲劇を子供たちに怖がらせずに伝えられるか」元国語教師の汐見夏衛さんは、そんな想いから物語を書き始めたそう。確かに子供たちに死の恐怖を植え付け、夜も眠れなくしてしまうのも違う。汐見さんの思いはやがて物語となり多くの若者の心に沁み渡り、7年後それが実写映画へと繋がって行きました。
戦争映画というと、当時、体験した世代が劇場に集まり、涙を流す光景をよく目にします。それはそれであっていいし、当時の戦艦や戦闘機が再現された映像に興奮する人が居てもいい。その感情と戦争賛同は違うのだと私は思っています。
ただ、若者や女性たちに、どうやったら戦争が招く悲しみや苦しみが拒絶されずにちゃんと届けられるか。それには捻りを効かせた手法で届ける必要がある。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、そこに挑戦した画期的な作品でした。
福原遥さん演じる現実世界の女子高生を主人公にしたことで親近感を沸かせ、その主人公が朝目を覚ますと、戦時下の日本だった。自分と近い世代の青年達が「お国の為によくぞ命を捧げる」と周囲に褒められながら、戦闘機に乗り込もうとしている時代を目にします。もし、そんな状況下の青年を好きになったら、自分は何を思うのか。この映画はそんな若き特攻隊の姿を美談には決してせず、現実にあった出来事を織り交ぜながらラブファンタジーとして描くことで、愛する人を失う悲しみから反戦の心を持って貰おうとする作品でした。
特攻隊を演じる水上恒司さんも伊藤健太郎さん、嶋﨑斗亜さん、上川周作さん、小野塚勇人さんも、当時の所作や軍事教育を学び役に挑んだそうです。興味深いのは戦争映画にあるリアルな戦闘シーンに拘らず、物語で伝えたい感情の変化に注視する成田洋一監督の演出でした。本作ではドラマチックな展開も作らずに、観客がゆっくりと感情移入して行けるように二人の行く末が描かれていきます。
そんな映画のラストを飾るエンドロールは福山雅治さん書き下ろしの主題歌「想望」。本人がこの作品をとても気に入って歌を作り上げたとのこと。確かに”怖いものは見たくないし、知りたくない”という思いはあってもいいけれど、将来の自分達の為にも知っておいて貰いたい過去の日本の悲劇。戦争が絶対、起こらないとは言い切れないし、自分達の力で止めることも選挙で出来るかもしれない。であれば住んでいる国の過去にも興味を持つこと。私はそんな想いを本作から読み取りました。
☑12月8日(金)公開『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
【あらすじ】親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原 遥)。ある日、進学をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子)とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年の6月…戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。そこで女将のツル(松坂慶子)や勤労学生の千代(出口夏希)、石丸(伊藤健太郎)、板倉(嶋崎斗亜)、寺岡(上川周作)、加藤(小野塚勇人)たちと出会い、日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった——。
2023/日本/127分
原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
主演:福原遥、水上恒司
出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希 坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子/松坂慶子
主題歌:福山雅治「想望」(アミューズ/Polydor Records)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一
製作:映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
配給:松竹
この記事を書いた人
邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。
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