舞台の裏側を支えるプロの仕事に迫る。仕事への想いやこだわり。「ニッセイ・バックステージ賞」受賞者インタビューPR ニッセイ
執筆者:GLOW編集部
華やかなステージの裏で、作品を支える“舞台技術者”に光を当てる「ニッセイ・バックステージ賞」。2025年に行われた第31回贈賞式の様子と、受賞されたお二人へのインタビューをお届けします。
ニッセイ・バックステージ賞とは?
公益財団法人ニッセイ文化振興財団が主催し、舞台を裏から支える技術者に贈られる賞。大道具、照明、音響、衣裳、舞台機構操作、舞台監督、劇場運営など、舞台芸術を支える幅広い技術職が対象です。1995年の第1回からこれまでに68名の“舞台のプロ”が受賞。受賞者には、賞金200万円と年金(年額50万円/10年確定)が贈られます。
2025年の受賞者は、衣裳着付けと舞台美術背景を担う2名のスペシャリスト


第31回となる2025年「ニッセイ・バックステージ賞」は、全国の舞台関係者約2200名に推薦が依頼され、49名が候補に。長年の功績や後進育成への貢献が評価され、慎重な審議を経て次の2名が選ばれました。
●中村洋一さん(衣裳着付け)
●松本邦彦さん(舞台美術背景)
文学座を中心に数多くの舞台で着付けを担当し、杉村春子氏の専属として高い技術を発揮してきた中村さん。現場で磨いた着付けの技法は多くの劇団から厚い信頼を集め、近年は後進の指導にも力を注いでいます。衣裳着付け分野からの受賞は今回が初めてで、その点でも注目を集めています。
一方の松本さんは、舞台美術背景の第一線で長年活躍し、蜷川幸雄氏や海外演出家の作品など多様な舞台を手掛けてきました。新たな素材や技法の探究を続け、舞台芸術の表現を広げてきた姿勢が高く評価されています。

受賞者インタビュー:仕事への想いとこだわり

長年にわたり舞台の現場を支え続けてきた「ニッセイ・バックステージ賞」を今回受賞されたお二人に、受賞の思い、これまでの歩み、そして仕事へのこだわりについて伺いました。
この度は「ニッセイ・バックステージ賞」の受賞、本当におめでとうございます。まずは、率直な今のお気持ちからお聞かせください。
中村さん:もちろん嬉しさはありますが、「自分がいただいてよいのだろうか」という戸惑いも正直あります。これまでの仕事は、周囲の支えがあってこそできたもので、自分一人の力ではありません。喜びと、少しのためらいと……その両方が入り混じった気持ちです。
松本さん:工藤和夫さん、倉林誠一郎さん、佐藤哲夫さんなど、これまでの受賞者の方々と同じ賞をいただけたことに、とても光栄に思っています。自分にはまだ早い賞だと思っていたので、「これからも頑張れ」という励ましを込めていただいたように感じています。

この仕事を続けてきて「やっていてよかった」と感じる瞬間、そして原動力になっているものは何でしょうか。
松本さん:就職したばかりの頃は、昔ながらの厳しさも残っていて、先輩から「10年早い」「100年早い」と言われることもしばしばでした。そんなとき、仕事を紹介してくださった先生から「まずは3年続けてみなさい。必ず勉強になるから」という言葉をもらい、その一言に支えられながら続けてきたことが、今につながっていると感じます。
特にバブル期は舞台も役者さんも勢いがあり、現場全体が熱気に満ちていました。役者さんから「こんなすごいセットで演じられるなんて嬉しい」「次はどんなセットが来るの?」と声をかけてもらえると、こちらも自然と頑張ろうという気持ちになります。
中村さん:僕もやはり、「素晴らしい役者さんを支えたい」という思いが仕事を続ける力になっていたと思います。舞台に立つ役者さんが少しでも心地よく、のびのびと演じられるように。そのために自分に何ができるかを常に考えてきました。
そして、お客様の大きな拍手が響いた瞬間には、「この舞台に関わることができてよかった」と、心の底から嬉しさが込み上げてきます。

仕事において、こだわっていることや大切にしている姿勢は何でしょうか。
中村さん:舞台の現場で特に意識しているのは、 “いかに役者さんの負担にならずに着替えをサポートできるか” という点です。どんな状況でも短時間でスムーズに着替えられるよう、気持ちの流れや役のテンションを崩さない段取りを常に考えています。
袖に入ってから舞台に立つまでの数十秒のあいだに、役者さんの気分はとても繊細に変化します。その緊張感を保ったまま送り出すべきか、あえて一息ついてもらうべきか——状況に合わせて判断しながら関わっています。まるで一緒に役づくりをしているような気持ちで、日々向き合っています。

松本さん:僕が仕事で大切にしているのは、まず演出家の意図をきちんと汲み取ること。そして、スタッフ全員が無駄なく動ける環境を整えることで、作品全体の完成度が上がると考えています。
たとえば、美術家・朝倉摂先生の絵画技法の一つに、“偶然に絵の具が混ざり合う”という独特の表現があります。この技法を、限られた予算や人員のなかでも活かせるよう、若いスタッフでも再現しやすい工程にまとめて共有する——そんな工夫を重ねてきました。
小さな工夫の積み重ねが、舞台をより良い方向へ導いてくれると感じています。

今後の展望や、これからのお仕事で叶えたい夢はありますか?
中村さん:これからも、体が続く限りはこの仕事を続けていきたいと思っています。「自分を必要としてくれる人がいるなら、その気持ちに応えたい」——そんな思いが原動力です。無理をせず、自分のペースで関わり続けていけたら嬉しいですね。
松本さん:同じ気持ちです。これまで培ってきた技術が、誰かの役に立つのであれば、できる限り応えていきたいと思っています。そして、やはり“育成”は大事なテーマです。次の世代へ技術を継承していくことが、自分の役割だと感じています。今は10人のスタッフがいるので、今日の話が少しでも励みになればと思います。
今日は素敵なお話をありがとうございました。最後に、GLOW読者へメッセージをお願いします。
中村さん:読者のみなさんは毎日お忙しい世代だと思いますので、舞台を観る機会は少なくなりがちかもしれません。でも、劇場に足を運んでいただけると本当に嬉しいです。観客が増えれば公演も増え、この世界で働き続けられる人も広がっていきます。そんな良い循環ができれば、もっと面白い作品が生まれるはずです。ぜひ、劇場にいらしてください。
松本さん:本当にそうですね。ぜひ劇場で、生の舞台を楽しんでいただけたら嬉しいです!
受賞者プロフィール
中村洋一さん(衣裳着付け)
1950年東京都生まれ。1970年に東京衣裳(株)へ入社し、『表裏源内蛙合戦』で現場に入る。1974年『天守物語・十三夜』を機に杉村春子氏の専属着付けを任され、大きな信頼を得る。その後も『女の一生』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』『怪談牡丹燈籠』など多くの舞台に携わり、時代背景やライティングを踏まえた着付けで高く評価される。2021年からはフリーとして活動し、後進の指導にも力を注いでいる。
松本邦彦さん(舞台美術背景)
1959年栃木県生まれ。日本工学院美術科を卒業後、(株)俳優座劇場を経て独立。日本テレビでTV美術背景製作に従事。1989年に(有)美術工房拓人を設立し、1991年オペラ『魔笛』を機に舞台美術背景を主軸に活動を広げる。『テレーズ・ラカン』以降はTPT作品を多数担当し、『オイディプス王』『ピッチフォーク・ディズニー』など幅広い舞台に参加。国内外の演出家から信頼を集め、現在も新たな技術や素材を取り入れながら創作を進めている。
photograph:Mari Yoshioka text:Riho Abe
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