【インタビュー】 シャルロット・ゲンズブール「父セルジュとセットのジェーン・バーキンではなく、今の母を写し取りたかった」【映画『ジェーンとシャルロット』】
執筆者:根岸聖子
ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールのもとに生まれ、アーティスト、女優、ファッションアイコンとして10代から注目を浴びてきたシャルロットさんが自ら企画し、母親と自分とを見つめ直すドキュメンタリー映画『ジェーンとシャルロット』が公開。シャルロットさんにインタビュー!
『ジェーンとシャルロット』
ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント 他にて全国縦断ロードショー
2017年の東京で、シャルロット・ゲンズブールはドキュメンタリー映画を制作するべく、母であるジェーン・バーキンの撮影を開始した。父、セルジュのもとで育った彼女は、母に聞きたいことが山ほどあったのだ。自らもカメラを抱えながら、プライベートと仕事の両面から、リアルな母娘関係を映し出していく。
2021/フランス/92分
監督:シャルロット・ゲンズブール
出演:ジェーン・バーキン シャルロット・ゲンズブール ジョー・アタル
配給:リアリーライクフィルムズ
撮影は母娘が大好きな東京からスタートした
――ドキュメンタリーは時間軸で進行していきますが、最初に東京で撮影を開始されたのは、ジェーンさんのライブがあるということなど、タイミングがよかったのでしょうか。
「まず、この企画は私がお母さんの側にいるため、ポートレートを描きたいという思いからスタートしました。当時、私はニューヨークにいたんですけれど、ちょうど、お母さんが『シンフォニック(・バーキン&ゲンズブール)』というツアーをやっていて。父が作ったラブソングを中心に構成されていて、各地のオーケストラと一緒に歌うという、とても素敵なツアーだったんです。私もすごく好きなステージでしたし、そのツアーで日本に行くというのなら、これはまたとない機会だなと。日本は母を通して好きになった国ですし、何か親密なものを描けるんじゃないかな、という思いもありました。確かに偶然のタイミングではあったのですが(笑)、スケジュールが合うことだし、私たちの好きな日本、東京から始めてみようと思いました」
初のドキュメンタリー作品、自らカメラを持ち撮影も行った
――ドキュメンタリーの制作は初とのこと。難しい部分や大変なことはありましたか?
「編集に関しては、今回のスタッフに出会えたこと自体、とても運が良かったと思っています。私自身、きちんと計画を立ててやるタイプではないので、編集担当のティアネス・モンタッサーがしっかりと段取りをしてくれて、このフィルムが最終的にどこを目指しているかを理解してくれていたことは、本当にありがたかった。当初、私が自分で撮影を仕切っていたときは、母を撮影するときもきっちりメイクをして、プロフェッショナルな感じで計算された映像を撮ろうと思っていたんです。でも彼女が、 “ドキュメンタリーを作るのに、これじゃ全然、素材が足りない”と指摘してくれて。完璧な撮影するために、準備が整うのを待っていたのでは進みが遅い。チームのスタッフがいなくても、自分でカメラ担いでどんどん撮りに行きなさいと、発破をかけてくれたんです。それで、私自身がカメラを買って、当事9歳だった末娘のジョーも一緒に連れて、ブルターニュの家で撮影することにしました。私の撮影なので、その部分はあまり上手ではないですし、フレームに入っていないような映像もあったけれど、だからこそ、生き生きとした映像にもなりました。段取りよく、プロ思考で撮られた部分と、非常にパーソナルなやり方で撮影した部分と、その両方がミックスされて、やっと一つの作品になったのが、このドキュメンタリー作品なんです」
――具体的に、どのような部分に気をつかいましたか?
「20歳の頃と今のお母さんとを対比するような作りではなく、とにかく、今の姿を描きたかったということです。だからアーカイブ映像というのも、使いたくはなかった。父親の存在というのも、完全に避けるわけではないけれども、あまり鮮明に出さないでおこうと思いました。母は30年近く、ずっと父の作った歌を歌い続けてきて、いつも父のことを前面に出して、自分がその後ろに隠れるようなところがあったので。むしろこの作品では、母を前に出そうと思ったんです。できれば、母自身のおもしろいところとか、イギリス的な側面であるとか。あるいは、台所で孫と一緒にいるおばあちゃん的な、今の完全な姿を映し取りたいというのが、私の意識していたことでした」
何かをする時はいつも自分の本能に従っています
――ちなみに、シャルロットさんご自身が、一番輝いているなと感じるのは、どんなときですか?
「やっぱり仕事をしているときですね。例えば、映画などの撮影をしているときは、一種の枠組みを与えられている時間でもあり、自分自身を忘れられる瞬間でもあるので。仕事をしていない自分は考えられないですね。私は12歳から仕事を始めて、映画『なまいきシャルロット』が大ヒットして、多くの人に知られるようになりました。通りを歩いていて有名人だって言われることも、人に見られることも、実はあまり好きじゃなかったんです。でも、人の目を気にしていては、やっていけない部分もある。だからこそ、毎日、自分は何をやりたいか、そこに焦点を当てて考え、行動するようにしてきました。まわりの人のことを考えて行動するような、おおらかな人にも憧れるんですけどね(笑)。でも、私はどうしても、何かメッセージを観客に伝えるためとか、そういうやり方ができなくて。だから今回のドキュメンタリーも、何かを伝えたいというのではなく、ただ単に私が、今のお母さんの姿を、余すところなく映しておきたいと思っただけなんです」
――自分の家族やきょうだいの関係と照らし合わせながら、共感する人も多いと思います。
「そういう反応があるとは思ってもいなかったので、とてもうれしいです。私はいつも、何かをするときは自分の本能に従って行動しているので。今回は、ただ単に、お母さんと一緒に過ごしたいっていう思いから始めたことだったので、“映画を見た後、お母さんに電話したんです”とか、“母と一緒に見に行きました”といった感想をいただき、私自身、とても感動したし、うれしかった。私の母という一人の人物を描いたことが、すべての娘さん、お母さんに訴えかけるような内容になったということは、自分でも予想していなかった、うれしいご褒美になりました」
【PROFILE】
Charlotte Gainsbourg 1971年7月21日、ロンドン生まれ。1986年に映画『なまいきシャルロット』で、セザール賞の有望若手女優賞を最年少の14歳で受賞。アーティストとしても’84年に父とのデュエット曲『レモン・インセンス』でデビューし、女優業と並行して活動中。
撮影=松永 学 取材・文=根岸聖子 ※インタビューは7月初旬に行われました
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この記事を書いた人
女性誌、テレビ誌、インタビュー誌など定期刊行物やwebサイトで音楽、映画、舞台、ドラマなどエンタメ系のインタビューやレポートを執筆。好奇心の赴くままに、体験もの、実用記事、書籍なども常時進行中。
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