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【映画レビュー】人嫌いのママが人生に疲れて家出、南極で自分探し『バーナデット ママは行方不明』9/22公開! 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は9月22日(金)公開の『バーナデッド ママは行方不明』。人づきあいがうまくいかないママ・バーナデットはある事をきっかけに南極に家出する。ケイト・ブランシェット演じる破天荒なバーナデットがチャーミング!


人付き合いや自分のこと、大人の不安は解消できる?

よく喋る映画というのがあります。自分の気持ちや考えをよく喋り、相手もよく喋る。それって「行動」より「口頭」なので脚本の学校に行ったら削られてしまいそうな文体。けれどウディ・アレン作品やリチャード・リンクレイター監督の作品はそれが面白いという不思議な魔法を持っています。しかも舞台ではなく行動範囲も自由が利く映画なのに、モノローグ(ひとりごと)が多いリンクレイター最新作『バーナデット ママは行方不明』。だけどこれにはちゃんと理由があるんですよ。

だって主人公のバーナデットは現時点では専業主婦なので、家の整理や子供の送り迎えと大忙し。そりゃ独り言も増えるだろうけれど、人に言えない不平不満、自分の不安までと心の声だって大きいのだ。しかも彼女は頭の回転が早く、娘のこと夫のことなど色んなことを考えている。きっとリチャード・リンクレイター監督もそうなのだろうな。その理由に他人同士が惹かれ合う過程を描く『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)からの三部作やハイパー元気な『スクール・オブ・ロック』(2003)なんかを想像すると腑に落ちるから。けれどカップルになること、他人同士が家族になることと人を育てる意味を考える『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)を撮り、子育ての中で家族になっても全て理解出来ないことについて考えついて、今作の原作への興味に繋がったんじゃないかと思うんです。そう家族であっても相手のことは“理解しようと努力しないと分からない”。これが本作のテーマのひとつ。

そんな原作に興味を持ったもうひとりの大物俳優が、今作の主演ケイト・ブランシェット。彼女の痛烈な印象は特にエリザベス1世を演じてゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞した『エリザベス』(1998)でのカリスマ性。エンタメからアート作品まで縦横無尽に行き来する「俳優」が天性の彼女が、本年度アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたカリスマ指揮者の半生『TAR/ター』(2022)の前に、自分から映画化を望んだのが今作でありました。

彼女が惹かれた理由を勝手に推測するならば、子を持つ母親であり、世界が認める才能溢れる女優であり、「家庭と仕事の両立」について聞かれることにやや嫌気も差していた過去のインタビューで見えてくる、「なぜ、女性だけが母親になると家庭と仕事を両立させなければいけないのか?」「才能を潰してしまうのは誰なのか?」というテーマ。これが原作に詰まっていたからなのかもしれない。

バーナデットは、実は才能を期待された建築家。そんな彼女の居場所は本当に「家庭」なのか? 娘や夫のことも愛しているけれど、彼女を活き活きと輝かせる方法はなんなのか? この旅の終着点を目にした時、本物の大自然(グリーンランドでの撮影)に心が洗われ、昇進でも成功でも名声でもなく、「好き」を探求する人こそ大切にしなければいけない才能の持ち主なのだと納得したのでした。そして人をペンギンのつがいに例えるのもさすがリンクレイター、とリンクレイターファンの私はほくそ笑んだのでした。
--伊藤さとり

☑9月22日新宿ピカデリー他全国公開
『バーナデット ママは行方不明』

【あらすじ】シアトルに暮らす主婦のバーナデット。夫のエルジーは一流IT企業に勤め、娘のビーとは親友のような関係で、幸せな毎日を送っているように見えた。だが、バーナデットは極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちとうまく付き合えない。かつて天才建築家としてもてはやされたが、夢を諦めた過去があった。日に日に息苦しさが募る中、ある事件をきっかけに、この退屈な世界に生きることに限界を感じたバーナデットは、忽然と姿を消す。彼女が向かった先、それは南極だった──!

 2019/アメリカ/108分
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット ビリー・クラダップ クリステン・ウィグ エマ・ネルソン
配給:ロングライド

© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved. Wilson Webb / Annapurna Pictures

映画『バーナデット ママは行方不明』オフィシャルサイト

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

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邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

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