• Culture

GLOWの
記事をシェア

【映画・インタビュー】内野聖陽の色気を感じ、春画に笑う!観る人の心も開放する『春画先生』10/13公開!【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は10/13公開の映画『春画先生』より内野聖陽さんが登場! 主演の内野さんは春画を研究し、ヒロインの北香耶さん、柄本佑さんが春画先生を慕い、安達祐実さんが驚きの役で登場!


10/13(金)全国ロードショー『春画先生』

【あらすじ】”春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。退屈な日々を過ごしていた春野弓子は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村や、芳賀の亡き妻の姉・一葉の登場で大きな波乱が巻き起こる。それは弓子の“覚醒”のはじまりだった     

2023/日本/114分/R15+
監督・脚本・原作:塩田明彦 
出演:内野聖陽 北香那 柄本佑 白川和子 安達祐実
配給:ハピネットファントム・スタジオ

映画『春画先生』公式サイト


作品の色気に惹かれて引き受けた

伊藤 『春画先生』を引き受けるきっかけというか、どんなところに惹かれたんですか。

内野 やっぱりエロスですかね。

伊藤 ウフフ。すごいですよね。春画を実写映画で見せている。

内野 それもそうだし、春画を研究してる人の話なんてね、観たいじゃないですか。というような動機がオファーを受けたきっかけ。ちょっと覗いてみたいし、先生役は面白そうだなと。それでシナリオを見せて頂いてますます興味が。若い女性と教師の恋、とか一昔前あったじゃないですか。すぐ思い出したのは『ダイアモンドは傷つかない』とか……。

伊藤 知ってます!

内野 山崎努さんと田中美佐子さんの。ご存知でしたかっ! ああいうのを思い出して……そういう世界観って好きなんです。

※『ダイアモンドは傷つかない』は藤田敏八監督による、1982年公開の映画。大学に通いながら予備校でバイトする弓子(田中美佐子さん)と、予備校講師の三村(山崎努さん)の不倫関係を軸とし、三村の妻や愛人も絡めストーリーが展開する。

春画の見方が変わる!

伊藤 春画先生の話し方はどうやって思いついたんですか。

内野 それは思いつきじゃないんです。ポスターにもなっている書斎シーンは撮影の初めの頃で、芳賀一郎という春画研究者が理想の女性に出会い、彼女に近づきたくて春画の観方を教える場面ですが、塩田さんから最初に言われたのは、先生が策士的な詐欺師のように見えたくないということでした。春画が大好きでそれを伝えたくてしょうがない可愛らしい人で、コミュニケーションや距離の取り方が不器用な、でも愛らしいキャラクターにしたいという思いがおありだったようで。なのでこのシーンは、何度となくテイクを重ねました。せりふの抑揚をなくしてみたり、サービス精神をなくしてぶっきらぼうな言い方にしてみてくださいと。監督のOKが出たのが丸一日経ったくらいだったんですよね。

伊藤 へー、だからか私このシーンすごく好きです。先生が弓子に春画の説明をしているところも面白くて。この一枚の絵の中で何が見つかるの、とドキドキして見つけ出すじゃないですか。一緒に勉強しました。

春画を取り巻く世界観も楽しめる。古美術に息がかからないように口もとをハンカチで抑えている鑑賞シーン。
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

内野 うれしいです。何がダメだったんだろう、何が違うんだろうと自分の中でも試行錯誤を繰り返して、塩田さんの求めてるところに到達するまでにとても時間をかけたシーンです。ここでチューニングが合ったというか、芳賀一郎先生はこの方向で行けばいいと、監督自身のなかでも光明が差したようで。とても大事で印象的なシーンでした。

伊藤 春画先生と弓子の成長物語でもありますよね。心の解放、再生というか。

内野 先生は奥さんを亡くし、絶望を抱えて生きていますが、だんだん創作意欲を取り戻して元気になっていきますしね。

伊藤 あと、春画をしっかりとスクリーンで観られるのもすごい。無修正の春画が写される日本の商業映画初のチャレンジでもありますよね。

内野 自分の中では春画はすごくデフォルメされたものだし、図書館でも見ることができる。そんなにハードル高くないんじゃないかなと思っていたんですけど、映倫の許可が下りるのかどうか、企画当初はある種の緊張感があったことは確かですね。

伊藤 春画はユーモアがいっぱいあるなと感じましたが、春画の見方は変わりましたか?

内野 ユーモアだらけですよね。映画にも出てきますけど人魚なんかが描かれているものがあったり……。 

伊藤 蛸と人魚の絡み合いみたいなのがありましたね。

内野 ちょっと滑稽ですよね。笑える。蛸が海女さんに絡み付いてる作品とかね。あれなんて、情景描写を語り部の人が語るのを聞いているだけで吹き出しそうになるんですよ。あと、春信の作品では、真似ゑもんていう、性の大冒険をしている可愛い小人が描かれていたり。淫靡な世界なのかなと思いきや、蓋を開けてみると「笑い絵」と称されるようにみんなでウフフ、エヘヘ、面白いねぇ、と鑑賞するものだったんですね。結合している描写が多いけどそれってそもそも生命の源・生まれてくるための原始的で根源的な行為なわけで。監督もおっしゃってますけど、生に対する賛歌、生きるものすべてへの肯定感が描かれている前向きなものが春画なんだという。見方がガラッと変わりました。市井の民の活力源というか。

伊藤 性を描くものに対して、恥ずかしくないよ、という紹介なのでそこも好きでした。

内野 なるほどね。観た人の心が寛容になれる映画なんじゃないかなと思います。今の時代は性に関する話題ってピリッとしてしまう緊張感があるような気がしますが、この作品はおおらかな世界観が素敵なんです。

ポスターに登場するような、様々な春画を劇中で観ることができる。内野さんの頭上にいるのが、真似ゑもん。
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

北さん、柄本さんとの共演

伊藤 北さん、柄本さんと3人のシーンも多かったですが、共演していかがでしたか。

内野 佑くんは昔から知っているけど、より天才肌に見えてきましたね。主線軸にいる僕たちとは違う音を出してくる、今回は非常に奇抜なキャラクターっていうのはあるけど。ヘンテコな音で入ってくるというのを感覚的にわかっている感じで流石だなと思いましたね。佑は天才だよね、バカか天才のどっちかだよね、と現場で冗談言ってました。本人否定してなかったですけど(笑)。

伊藤 確かに天才肌!

内野 北香那ちゃんは体当たりで。弓子を体現したようなパワーで存在してらしたので、たくさんインスピレーションをいただきました。楽しく演じさせてもらえてよかった。とっても素直なんです! 監督の言われたことを真剣に頑張るし、お芝居に嘘もない。先生が見染めた女性で、この映画の最終幕ではびっくりするような展開になりますけど(笑)。先生に怒ってくらいついてくる表情などはとても素敵で。弓子そのまんまでしたね。

弓子を演じる北香那さん。内野さんとは『罪の余白』(15)以来の二度目の共演。
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

塩田監督いわく、いい加減な色男・辻村を演じる柄本佑さん。
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

輝いているのはこんな時

伊藤 内野さんは『春画先生』も『きのう何食べた?』も、キャラクターが魅力的で大好きなんですけど、内野さんが自らを輝かせるためにしていることなどありますか?

内野 なんでしょうね……、雑念を捨てることかな。日常の中での悩み事やうまくいかないストレスを仕事に持ち込んじゃうと、いい化学反応が現場で生まれなくなりますから。なるべく頭でぐじぐじ考えていることから無心になるように心がけています。僕たち役者はフィクションという枠組みの中で全集中して自由になっていくことが大事なんです。読者の皆さんは色々な仕事をされていると思いますが、僕にとって大切なことはその瞬間に一所懸命になることのような気がします。

伊藤 一所懸命になった後のガス抜きは?

内野 酒を飲む、ゆるいトークをして笑い合う。なんてことな~い話をして、そうそう、ワハハ~ガハハ~とやっている時が好きだし、ゆるみますね。

伊藤 内野さんが輝いていると思う方は?

内野 今の自分のことが好き、というひと。自分自身もそうだけど、日本の人は謙遜文化もあるから自分を認めることができず、自己肯定感が低め。そんな中嫌味なく今の自分が好きと言える人が素敵だし、自分もそういうジジイになりたいですね。


【PROFILE】

うちのせいよう:1968年9月16日生まれ、神奈川県出身。『(ハル)』(96)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。演技派俳優として映画やドラマ、舞台と幅広く活躍。主な出演作は、テレビドラマでは、大河ドラマ「風林火山」(07)、「真田丸」(16)、「臨場」(09/EX)、「JIN-仁-」(09/TBS)、「とんび」(13/TBS)、「きのう何食べた?」(19/TX)。映画では『臨場劇場版』(12)、『家路』(14)、『罪の余白』(15)、『海難1890』(15)、『初恋』(19)、『ホムンクルス』(21)、『劇場版 きのう何食べた?』(21)、『鋼の錬金術師』(22)など。2021年に紫綬褒章を受賞。テレビ東京 ドラマ24『きのう何食べた? Season2』放送中。

公式サイト

撮影=梶田麻矢 スタイリスト=中川原 寛<CaNN> ヘア&メイク=佐藤 裕子<スタジオAD>

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

執筆記事一覧を見る

邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

記事一覧へ戻る

GLOWの記事をシェア!