【映画】稲垣吾郎「“普通”って難しい。爪痕を残したい所をかなり抑えました」 11/10公開『正欲』インタビュー
執筆者:GLOW編集部
稲垣吾郎さんの最新作『正欲』が、2023年11月10日(金)より公開されます。原作小説は、『桐島、部活やめるってよ』や『何者』などの人気作家、朝井リョウさんが、作家生活10周年を記念した2021年発表の作品で、第34回柴田錬三郎賞を受賞した話題作。映画は、第36回東京国際映画祭 コンペティション部門に正式出品が決定。GLOWでは、主人公の検事・寺井を演じる稲垣さんに作品のテーマや役作りについて伺いました。
☑11月10日(金)、全国ロードショー 映画『正欲』
【あらすじ】横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。
2023/日本/134分
監督:岸善幸 脚本:港岳彦
原作:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊)
出演:稲垣吾郎 新垣結衣 磯村勇斗 佐藤寛太 東野絢香 山田真歩 宇野祥平 渡辺大知 徳永えり 岩瀬亮 坂東希 山本浩司
制作:テレビマンユニオン
製作幹事:murmur
製作:「正欲」製作委員会
配給:ビターズ・エンド
ⓒ 2021 朝井リョウ/新潮社 ⓒ 2023「正欲」製作委員会
難しいテーマだからこそ、挑戦になると思った
——本作は、マイノリティとして生きる人間たちの孤独とその先にある希望を描き、見る者の価値観を揺さぶる衝撃作です。映画のどんなところに惹かれて出演を決めましたか?
「朝井さんは自分の番組の対談でお世話になった縁もあって、もともと原作を読んでいました。でも、当時、映画化するとは思わず読んでいたんです。朝井さんの小説というと青春の群像劇のイメージが強いけれど、『正欲』は冒頭から堰を切ったように始まり、内容も結構衝撃的なんですよね。朝井さんの強い意思表明だと感じて、インパクトが大きかったです。なので、最初、映画化すると聞いた時は驚きました。テーマも難しく、エピソードもたくさんあって、どうやってまとめていくのか。でも、だからこそ挑戦になるし、面白くなりそうだとも思いました。新垣結衣さんを筆頭に、共演者の方々も興味深かったです」
絶妙な関係性の役どころ、新垣結衣さんと磯村勇斗さん
大学の同級生を演じる、佐藤寛太さん、東野絢香さん
普通を演じることの難しさを感じた
——稲垣さんが演じる検事の寺井啓喜は、不登校の息子がの教育方針をめぐって妻と対立していきます。ともすれば悪役にも見えかねないところを、稲垣さんが演じたことで、憎めないキャラクターとなりました。
「寺井は、悪役や敵役にも見えるんですよね。彼が普通だと思っていてやっている言動に、意地悪さとか、狂気、凶暴性が感じられるので、そこを出せたらいいなと思いました」
——演じる上で苦労したところは?
「普通ということが、すごく難しかったです。役に個性がある方が、特徴をイメージして、自分のオリジナリティを出して作れるんですよね。作品を見ていると、自分が何にもしてない感じがするんですよ(笑)。俳優の仕事してないな、って思うんだけど、役柄を考えるとそれでいいってことか、と。今までにないパターンの役柄と演技のアプローチでしたね」
——ちなみに、稲垣さんが普通っていいなと思うことはありますか?
「それはないです。結局、普通であることは、安心だと思うんですよね。『あ、一緒なんだ』『俺もそう』『みんな普通だね。同じでいいよね』って。一歩間違えたら、同調圧力になってしまって危ないんですよね。それに僕はこの仕事をする上で、そういったものから抜け出さないといけないって教わってきているんです。いわゆる普通だと面白くない“商品”になってしまうので、周りや人に合わせていくことは、やってきてなかったかな。なので、世間のことが全然わかっていないという面もあるんですけどね」
生きにくさを感じている人にも響いてほしい
——本作は、人に理解されづらい性的指向についても描いています。
「自身の抱える性的指向によって、人と関われず、生きにくさを感じている人。社会と世間、世界とどう折り合いをつけていくのか、悩み苦しむ人たちの話です。性的指向は、人になかなか言えないですよね。特に欲望が絡むと、隠したくなるのも当然。でも、誰でもそういうものは持っていると思うし、持っていていいと思います。この作品で描かれる性的指向は、本質的に人とつながりにくいから、社会で生きにくくなってしまっていますが、僕の場合は指向がちょっと見え隠れするぐらいの方が、個性として面白いと思ってるので、全然苦ではないんですよね。本当にいろんな人がいるので、この作品がいろんな人に響いてほしいです。そして、苦しんでいる人の救いになったら嬉しいです」
自分が輝いているのはどんな時?
――最後の質問です。GLOWのテーマは「輝きはいつだって自分の内側にある」です。稲垣さんが輝いていると思う人はどんな人か。また、ご自身を輝かせるために心がけていることを教えてください。
「僕の周りに輝いている人は、いっぱいいます。単純なことだけど、ちゃんと人生をエンジョイしているか、前向きに生きているか。それに尽きます。最近、仕事で今井美樹さんにお会いして、すごく素敵でそれこそ内側から輝いていると感じました。今井さんは笑顔が印象的な方ですが、心から楽しいからあの素敵な笑顔になるんだな、と。また、自分の現状に満足せずに感謝しながら、さらなる高みを目指す人は、バイタリティがあって輝いていると思います。そして、人に興味を持つことが大事かな。その人自身が楽しく生きていても、人に対する愛がないと輝けないと思うんです。僕も自己愛だけでなく、人に興味を持って、愛を持って接することを大切にしています」
稲垣吾郎さんPROFILE
1973年12月8日、東京都出身。91年に歌手デビューし、17年に「新しい地図」を立ち上げる。10年に『十三人の刺客』(三池崇史監督)で第23回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞助演男優賞、第65回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。18年に『クソ野郎と美しき世界』(園子温監督、山内ケンジ監督、太田光監督、児玉裕一監督)が2週間上映ながら28万人を超える動員を記録。19年に『半世界』(阪本順治監督)で第31回東京国際映画祭観客賞、第34回高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演映画は『海辺の映画館─キネマの玉手箱』(20/大林宣彦監督)、『ばるぼら』(20/手塚眞監督)、第35回東京国際映画祭観客賞を受賞した『窓辺にて』(22/今泉力哉監督)など。舞台では、白井晃演出の「No.9-不滅の旋律-」(15・18・21)、「サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-」(21・23)、「恋のすべて」(22/作・演出:鈴木聡)などで主演を務める。現在の主なレギュラーは「7.2新しい別の窓」(ABEMA)、「ワルイコあつまれ」(NHK Eテレ)、「趣味の園芸/稲垣吾郎 グリーンサムへの12か月(NHK Eテレ)、「THE TRAD」(TOKYO FM)、「編集長 稲垣吾郎」(文化放送)、「anan/シネマナビ!」(マガジンハウス)、「GLOW/SALON de 大人男子。」(宝島社)などがある。
撮影=清水将之〈mili〉 スタイリング=黒澤彰乃 ヘア&メイク=金田順子 取材・文=杉嶋未來
ボッテガ・ヴェネタ ジャパン TEL0120-60-1966
BOTTEGA VENETA
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