TOMORROW × TOGETHERはK-POP随一の少年性が光るボーイズグループ
プレミアムショーケース@六本木ヒルズアリーナ レポ①【菊地陽子の40代からの推し活道】
執筆者:菊地陽子
(P)&(C) BIGHIT MUSIC
TOMORROW X TOGETHERショーケースで再認識!
推しがくれるのは“青春のきらめき”
“推し”を作ることは、年齢に関係なく、失われた青春を取り戻す作業でもある。青春時代を、中学生と定義する人もいれば、高校生、大学生、はたまた仕事を覚え始めて、自分の自由になるお金ができた20代だと振り返る人もいるだろう。
ある時期まで、K-POPアーティストとJ-POPのボーイズグループを応援するファン層には、一定の線引きがあった。その線引きとは、年齢とかでは分けられない、その人の趣味嗜好とか、癖のようなものに近い感覚。わかりやすくいえば、「取り戻したい青春がどの時代にあるか」ということで、J-POPに傾倒する人は、その“青春”を中学生とか高校生のような、10代に限定させていることが多かった。グラウンドで練習するカッコイイ先輩の姿を、フェンス越しに追いかけて見つめているような、そんな憧れとか片思いに浸る青春。憧れの対象が、夢を掴んで、羽ばたいてほしいと願い、応援する。そんな、淡くてピュアな思い――。だから、多少の未熟さも、“親近感”や“可愛さ”として受け止める。ライブでは、10代の青春なんか遥か遠い昔になっている40代でさえ、17歳の小娘に戻れるのが醍醐味だ。
一方で、K-POPに傾倒する人たちが設定する青春は、20代にあることが多い。というのも、徹底的な修練を積んだのち、完成されたパフォーマンスで魅せるK-POPの場合、「ルックスも才能も優しさも兼ね備えた、こんなに完璧な人たちがいるんだよ」と、最初から、女子の理想とする男性像を提示されるからだ。よって、沼堕ちした人たちは、「もっと早い時期に、こんな人と出会って恋愛がしたかった……」という、多少の後悔とともに、異国の地からやってきた王子様との、ファンタジックな青春を取り戻すことができる。ものすごくシンプルにいえば、「こんなカッコいい彼氏がいたらいいのに!」と熱狂するのがJ-POP、「こんな素敵な旦那さまが欲しい!」と妄想するのがK-POP。二つの国のボーイズグループのコンセプトには、そんな違いがあるように感じられた。少なくとも私の中では。
ところが、BTSの出現によって、K-POPファンの“青春”の定義は一気に拡大された。彼らの快進撃は、2017 年3月にHIP HOPの名門レーベルDef Jam Recordsへ移籍したことから始まっている。最初にリリースした楽曲は、「血、汗、涙」。少年たちが、人生で最初の誘惑に出会ったときの葛藤をテーマにしたこの楽曲は、それまでのK-POPグループにはないような、強烈な“青春の光と影”が感じられた。
その後の彼らの活躍は誰もが知るところだが、BTSの音楽がここまでの盛り上がりを見せた背景には、それまで「完璧な姿」で提示されてきたK-POPの主人公たちが、葛藤する姿を晒すことで、世界に羽ばたこうとする彼らを応援するとか、成長を見守るという、参加型の面白さが加わったこともあると私は見ている。それまでのグループでは、MCで拙い日本語を話すことなどでくすぐられていた母性から、さらに、「いや、この人たちの夢に、私も手を貸そうじゃないの!」とでもいうような、肝っ玉な部分を開拓されたのだ。完璧な状態のエンターティナーを提示されていたが故に、妄想という依存にとどまっていた愛が、「世界レベルで見たら、まだまだ未熟な僕らなので、みんな手を貸してほしい!」と訴求されたことにより、ARMYたちのそれまで手付かずだった(というか未開拓だった)愛の畑が、見事に耕されてしまったのである。
(P)&(C) BIGHIT MUSIC
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TOMORROW X TOGETHERライブで少女時代へタイムトリップ!
前置きが長くなってしまったが、ここからが本題である。8月30日、六本木ヒルズアリーナで開催されたTOMORROW X TOGETHERのプレミアムショーケースに足を運んだのだが、第一印象は、「かつて、これほどまでに少年性を感じさせるK-POPのボーイズグループがあっただろうか!」という衝撃だった。TOMORROW X TOGETHERは、BTSと同じ事務所所属で、2019年3月に韓国で、翌年の1月に日本でのデビューを果たした。SOOBIN(スビン)、YEONJUN(ヨンジュン)、BEOMGYU(ボムギュ)、 TAEHYUN(テヒョン)、HUENINGKAI(ヒュニンカイ)の5人のメンバーで構成されている。
ステージでは、8月31日にリリースされたシングル『GOOD BOY GONE BAD』と、カップリングで日本オリジナル曲の『君じゃない誰かの愛し方』を披露。オールブラックでありながら、全員がハーフパンツという衣装も手伝って、カッコよさとしなやかさと華奢さと可愛さが大渋滞していた。
今はまだ、大きな声では叫べないけれど、例えばもし自分のお金でチケットを買って、ライブにまで足を運ぼうものなら、いくらでもキャーキャーできそうな気がした。ライブでは、14歳だろうが38歳だろうが、49歳だろうが70歳だろうが、会場に入ってしまえば誰もが平等。楽しんだもの勝ちなのである。「私なんかオバサンだし」などと萎縮して、ファンサービスのひとつも見逃してしまったら、それこそが敗北者だ。元々、ボーイズグループのライブは、まるでタイムマシンのように、少女時代に回帰できる効果がある。そういう意味で、TOMORROW X TOGETHERに浸ることでタイムトリップできる年月は、間違いなく世界トップレベル。わずか2曲のパフォーマンスだったが、十分に青春のきらめきを体感できたのだった。
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