映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』水上恒司×伊藤さとりが初挑戦の声優について、支えられた言葉などトーク【シネマでぷる肌‼】
執筆者:伊藤さとり
アニメーションの技術力に感動
伊藤 この作品の、特にどんなところが良かったと感じましたか?
水上 僕自身、ちょっとだけアニメーションを作ってみたいんです。声を当てはめるというより、全部自分で作って、全部自分の声を当てる、そういうことに興味があって。『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』も、CGの技術が本当に素晴らしくて、数年かけて作られている。僕が収録した段階では、まだカクカクした動きの部分もあったんですけど、どんどん滑らかになっていって。10代に入る前くらいに観たディズニーやピクサーの作品を観たときと同じような衝撃がありました。今の子どもたちにとって、こういう映像が“当たり前”な世界になっていく。それがどうやってできているのかというところに視点を置いて観ましたし、子どもたちもそこに視点を置いて欲しいなと思いました。
伊藤 3DCGでさらに“もふもふ感”もすごくなっていて驚きました。ふわんふわんが伝わってきて。しかも、ロバート・デ・ニーロみたいなルックのおじさまも出てきたり、笑いもあって。アニメーションに興味あるとのことですが、そのあたりもう少し聞かせてください。
水上 ストーリー性のあるものというより、個人的にインスタグラムで見かける短くてユニークなアニメなどに惹かれます。そういう方が作ってるアニメを見て、「自分にもできるんじゃないか?」と、手を出してみました。子どもたちもきっと、この作品を観てそう感じるんじゃないかなって。でも、実際にやってみると、すごくレベルの高い、技術が高い世界だなと感じて、そこはちゃんと「簡単じゃないぞ」っていう壁も感じてほしいですね。でも、作品を観たら感動した。だから、「こんな作品を作りたい」と思ってほしいですね。
伊藤 イラストを描くことを始めたのはいつぐらいなんですか?
水上 デジタルは、2年くらい前から始めています。僕は全部“我流”で、油絵も水彩も描いていて、もともとアナログ派なんです。インスタグラムにはアート用のアカウントもあって、公式アカウントにメンションして作品を載せていますが、アニメはまだ世の中には出していません。アニメって本当に難しいですよね。この作品を経験して、心からそう思いました。
伊藤 自分の身になることもプラスしながら、新しいことに挑戦していて素晴らしいです。作品のテーマについても伺いたいんですけど、たべっ子どうぶつたちがグループの中で嫉妬しあうこともあるけど、それを後でちゃんと受け入れたり。そういう部分がとても好きでした。
水上 そうなんですよね。子どもたちはきっと言語化しにくいと思うんですけど、「あの子、らいおんくんっぽくない?」とか、「かばちゃんって、あいつだな、ちょっと苦手なんだよな」とか。自分のことじゃなくて、他人のこととして見るから、逆にかわいく見えたりするっていうか。「あれ? 私、アイツのこと嫌いだったのに……」って思ったり。でもそれが、自分の中にある感情なんですよね。そういうふうに、“他人事”だからこそ、実は自分の中の感情に気づけたりする。この作品に出てくるキャラクターたちは、別に全部がうまくいくわけじゃないし、時にはぶつかったり、傷つけ合ったりもするけど、それでも進んでいかないといけない。その部分は、子どもたちにもちゃんと届くと思うし、大人の方が、むしろ逃げちゃうことが多いと思うんです。だって映画館には、大人が子どもを連れてくるわけじゃないですか(笑)。だからこそ、大人にも見て感じてほしいです。
伊藤 また、この作品では“ライバル心”もテーマになっていて、最終的にはそれが良い方向に転がっていく描かれ方もしていました。水上さん自身は、ライバル心や嫉妬を感じたことはありますか?
水上 あんまりないですね。でも、野球をやっていた頃はありました。負けたくないという一心で、それこそ力が入りすぎて、視野が狭くなっていたというか、陥っていたなっていう思考もあったんです。今は「別にいらないな」って思えるようになりました。そう思えるのは、やっぱり当時の経験があるからこそ。あの時の自分がいたから、今の自分がいて。例えばらいおんくんも、ぺがさすちゃんと出会って変わっていくけれど、最初から魅力的だったわけじゃない。誰にでも、魅力的じゃなくなる瞬間があると思うし、でもそれを経験することで、より魅力的になれる。そういうことなのかなって思います。
伊藤 仲間に助けられるというのも、この映画の大切なテーマ。水上さんご自身が、この仕事をする中で「この言葉に支えられた」と感じたことはありますか?
水上 師匠のような存在の方から言われた、「映像は役者のものではなく、監督のものだ」という言葉にはすごく救われています。自分がどれだけ良い芝居をしたと思っても、採用されるかどうかは自分ではわからない。OKが出た瞬間に、それはもう自分のものじゃなくなる。開き直りというか、ある種の諦観でもあるかもしれない。勉強すればするほど、現場を重ねていけばいくほど、「ああすればよかった」「こうすればもっと……」って、どうしても反省が出てくるんですけど、この言葉があることで、次に切り替えやすくなるんです。的を得てますし、真理だとも思いますし。それでも“OK”を出してもらえるように、自分は努力し続けなきゃいけない。その姿勢こそが美学でもあり、自分を律するうえでも、大切にしている言葉です。
伊藤 この作品はいろんなキャラクターが登場しますが、小さい頃、水上さんはどんな子どもだったんですか?
水上 絶対ぞうくんではなかったです。ぞうくんみたいに知性ないですもん(笑)。らいおんくんは意外と自分の自由さも出しますが、空気読んで気を遣えるじゃないですか。だかららいおんくんでもない(笑)。じゃあ、かばくんかというと、かばくんみたいに人を傷つけずに、でも自分の世界をちゃんと持っている……というのもまた違っていて。
伊藤 引き算でいきますか(笑)。
水上 (笑)。消去法でいくと、さるくんっぽいんじゃないですかね。やんちゃで、たぶん大人に一番怒られてる(笑)。
伊藤 小さい頃、そんな感じだったんですか?
水上 そうですね。両親に「首輪をつけておきたかった」と言われるくらい(笑)。車のチャイルドシートから放たれた瞬間、バーッて走り出すタイプでした。車から降りた瞬間、水を得た魚のようにいなくなるんです。それで、「ここでいなくなったらお父さんとお母さんはすごく困る。だから、絶対一瞬だけはここにいてくれよ。わかったな?」って言われて、「うん、わかった」って言ってるのに、しゅっといなくなる。結局そのあと怒られるんです(笑)。で、怒られても「なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ」って顔をしていたらしいです。
伊藤 ものすごく好奇心旺盛だったんですね。
水上 何も知らないからこそ、「うわー、あれ面白い!」みたいに興味関心が移ろいでいくような子だったみたいです。さるくんがそうだとは言わないですけど(笑)、近いところはあるかもしれないですね。
この記事を書いた人
邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。
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