【映画『怪物』】永山瑛太さん 「見終わった時、“ものすごい映画だったな”と思いました」 是枝裕和と坂元裕二の初タッグ作品に出演
執筆者:土谷沙織
映画『怪物』が6月2日に公開。第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したことも記憶に新しい。GLOWでは永山瑛太さんに映画のこと、読者へ向けたメッセージなどを伺いました。雑誌GLOW7月号での永山瑛太さんインタビューとあわせてご覧ください。
日本最高峰の才能が集結し描きあげるヒューマンドラマ
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた是枝裕和監督と常に新作が待ち望まれる坂元裕二脚本家が初タッグ。さらに世界の映画音楽の分野でも類稀なる功績を残した坂本龍一が音楽を担当。奇跡のコラボレーションで描く、感動の物語。
【あらすじ】大きな湖のある郊外の町に住む麦野早織(安藤サクラ)は、「豚の脳を移植した人間は、人間? 豚?」と、11歳の息子の湊(黒川想矢)から奇妙な質問をされて戸惑う。早織は、近頃の湊の様子が気がかりだった。ある日、帰りが遅い湊を車で探し回ると、廃線跡の暗いトンネルの中にいて「かいぶつ、だーれだ」と誰かに呼びかけている湊を見つける。帰り道、湊は走行中の車から突然飛び降り、駆け込んだ病院では「湊の脳は豚の脳と入れ替えられた」と保利先生(永山瑛太)から言われたと涙ぐむ。学校に事実確認をする早織だが、教師たちは心ここに在らずで、主張も真っ向から食い違う…。数日後、小学校に保護者が集められ、保利が暴力を認めて謝罪し、地方新聞でも大々的に報じられる。全ては幕を下ろした−−。早織はそう思っていたが、巨大な台風が近づく朝、突然湊が姿を消す−−。
「虚構の中で生きることがしっくりくる時もある」
――映画『怪物』の撮影は、長野県の諏訪をメインにおこなわれたそうですね。
「10年以上前のドラマ『それでも生きていく』という作品でも舞台になった土地です。今回また諏訪湖周辺で撮るということで、強いご縁を感じました。すごく町が活気づく7年に一度の御柱祭があって、その祭りの後の静かな雰囲気を撮影のない日に一人で車で回って味わったりしながら、あの美しい場所で起きる保利という人間の物語について考えました。このタイミングでこの作品に参加できたことは、僕にとってすごく貴重なものとなりました」
――永山さんが演じられた保利先生は、物語のキーパーソンで、脚本家・坂元裕二さんの当て書きによるものだとか。「坂元さんとは20代の頃からのお付き合いです。どんな台詞でも、それは坂元さんから僕への“お手紙”なんだろうな、と勝手に解釈しています。保利は、普通に生活しているだけなのに、本当にちょっとしたことで落とし穴に落ちて窮地に追いやられていく人。そういうところがやっぱり、坂元さんが僕に当て書きするとこうなるのか、と思うところですね。おこがましい言い方かも知れないですけど、もしかしたら坂元さんは、自分のことを僕に当てて書いているのかなって。役が苦しい立場に陥った時、“葛藤しろ、苦しめ”と言われているような気がするんです。物語の中で苦しみや悲しみを抱えることは、僕自身はそう苦ではなく、虚構の中で生きていることの方がしっくりくる時もある。だから俳優になったんだな、ということを最近再確認しています」
――作中では、子どもたちの姿がみずみずしく描かれています。永山さんにとって、子どもとはどういう存在ですか?
「動物的な反応というか、本能的にキャッチしようとする感性が鋭いから、“この人は面白い、この人はつまらない、この人は優しい、この人は怖い”ということに対して子どもの方が判断が早い気がします。深く考えないで答えを出せるという、ある意味での怖さも感じますけれど。だからといって、繊細に扱わなきゃとも思わないし、こうすべきみたいな断定した答えを与えるのも違うし、放任主義でいいのかというと、それも難しいところ。僕は息子がいますけど、自分とは全然違う人間だし、毎日変化していくんですよ。そこはやっぱり、親としてちょっとしたことで子どもの人生を大きく変えてしまうかもしれない責任があるな、と思いますね。子どもはやっぱり、大人を見ていますからね」
「周囲を気にしすぎないマイペースな人は輝いている」
――GLOWのテーマは「輝きはいつだって自分の内側にある」です。永山さんにとって輝いている人とはどういう人ですか?
「あんまり周りのことを気にしていないマイペースな人は、輝いているんじゃないでしょうか? 自分の世界観を客観視しているのかいないのか、気を使っているのかいないのか、それがよく分からない自由奔放さがある人。でもやっぱり、努力していないと輝きって出ないと思いますね。人にはいろんな輝き方があって、すごく暗いところから薄〜い光が出てるような人もすごい素敵だし、パキッと明るく輝く人もいらっしゃるし。僕自身が輝いていると思う時…ですか? うーん、プライベートでサッカーしてゴールを決めた瞬間! それくらいじゃないでしょうか(笑)」
――では最後に、同年代の読者へメッセージをお願いします!
「女性は高い美意識を持っている人が多いと思います。ただ、男目線から言うと、そんなにものすごくきれいにしなくても大丈夫なんだけどな、って思います。自分自身がそうですけど、外見よりも中身を見ますよね。何を考えているのかな? とか、どう感じてるのかな? ということが重要。結局一緒にいて居心地が良かったり話しやすかったりするのって、もちろん波長とかもあると思いますけど、“一緒にこの時間を大切にしましょう”という気持ちだと思います。価値観がずれていても、その時間をいいものにしようと思えば、きっと楽しくなる。例え沈黙だとしても、すごくいいものになるし。そこで外見とか、表面的なところを気にしていてもあんまり意味がないと思います。その人を感じることだったり、楽しいこと何かないかな? と探すことに意識を向けると、人として豊かになれるんじゃないでしょうか。人生はきっと、楽しんだもの勝ちなんじゃないかと思います!」
永山瑛太さん
1982年、東京都出身。’02年に俳優デビュー。主な出演映画作品に『ディア・ドクター』、『まほろ駅前多田便利軒』、『友罪』、『護られなかった者たちへ』などがある。セックスレスに悩む夫婦を演じた4月期のドラマ『あなたがしてくれなくても』の演技も話題に。
6/2公開『怪物』
2023/日本/125分
監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
音楽:坂本龍一
配給:東宝、ギャガ
©︎2023「怪物」製作委員会
撮影=清水将之<mili> スタイリング=壽村太一 ヘアメイク=波多野香織 取材・文=土谷沙織
【ノベライズで世界観をより堪能して】
日本を代表するストーリーテラー・坂元裕二(脚本/『花束みたいな恋をした』)と映像作家・是枝裕和(監督/『万引き家族』)が初めてタッグを組んで描いた圧巻の人間ドラマ、映画『怪物』の完全ノベライズ版が登場。映画を観た後、観る前どちらでも、坂元×是枝の“物語”を存分に小説で味わって。
Ⓒ2023「怪物」製作委員会
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