【映画】公開中『ウーマン・トーキング 私たちの選択』女性たちが自分の未来や尊厳のために議論する【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】
執筆者:伊藤さとり
映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は『ウーマン・トーキング 私たちの選択』。19世紀の生活を守る教派の女性たちに起こった事件を解決し、未来のために議論する物語で実話がベースになっています。
女性だけで行う、自分たちの未来のための話し合い
本年度アカデミー賞、最優秀脚色賞を受賞、作品賞にもノミネートされた『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、抑えられた色彩の中で女性たちが会議を続ける物語。その色が伝える意味は、現代社会から離れ、19世紀の生活スタイルを守る「メノナイト」という教派の女性たちの身に起こった事件であり、男たちによって尊厳を奪われ(色を奪われた)女性たちが主人公だからなんです。しかも2009年にボリビアのメノナイトの集落で実際に起こった連続レイプ事件を原案に書かれたミリアム・トウズによる小説が原作。この事件は寝ている隙に幼児から大人まで様々な女性たちが性的暴行を受けたものの、「悪魔の仕業だ」と当初、男性達が聞く耳を持たなかったいう非道なものでした。
それを女優でもあるサラ・ポーリー監督が脚本を書き、『キャロル』のルーニー・マーラを主演に迎え、その他、多くの名女優たちが出演を果たし、オスカー女優フランシス・マクドーマンドに至っては出演と製作も務めるといった女性達の団結心が垣間見える作品に。さらには『007』シリーズのベン・ウィショーをメノナイトの女性達に信頼される集落の男性役にキャスティングし、ブラッド・ピットの製作会社「PLAN B」で映画化したのです。
特筆すべき点は、レイプシーンが一切出てこない点。これぞ、観客や俳優に精神的負担を与えない構成であり、レイプ事件の詳細を画で伝えることこそナンセンスで、事件において重要なのは、彼女達が人間としての尊厳を奪われていたことにどうやって気づき、決断を下したのかであると監督は考えていたからでしょう。更に自身も子を持つ親であるサラ・ポーリー監督は、スタッフや俳優達の生活を重視して仕事時間の配分など工夫し、精神的にも負担のない現場作りを心がけたそう。
男性達が留守の2日間で行われる女性達の未来を懸けた会話劇なのに、全く飽きることなく観られるのは、芸達者な女優達による緊迫した空気の中、様々な考えを持つ女性達の命を懸けた話し合いだったから。そして物語の女性達が一人の女性であると共に母親でもあり、人によっては息子を持つ母親でもあることから、子育てにおいて何が最善なのかも共に考える本作は、声を上げることで未来は必ず開けることはもちろん、“どんな決断もあなたにとって最善ならそれで良い”と個を尊重し、背中を押す映画であることは間違いありません。
――伊藤さとり
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイント他全国公開中
『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
【あらすじ】2010年、自給自足で生活する、あるキリスト教一派の村。見渡す限りの畑と響き渡る子供たちの遊び声、祈りと信仰が支える穏やかな日常。それは永遠に続く平和な暮らしのはずだった。だが、少女たちの肉体に次々と異変が起こり出す。朝起きると、寝る前にはなかったアザが印されているのだ。叫びで始まる朝、母は娘の体の異変を目にしながら、抱きしめる事しかできない。長年、コミュニティの男たちは女性たちの訴えを作り話だと受け流し、悪魔の仕業なのだと取り合わなかった。
ある晩、寝室に忍び込んできた青年に気づき、少女が声を上げたことで事態は動く。男たちは逮捕され、保釈までの2日間、女性たちは大きな納屋に集合する。記録係として参加を許された唯一の男性は、一度コミュニティから出て、大学で学んで帰郷した教師のオーガスト・エップ(ベン・ウィショー)。子供たちの世話は、物言わぬメルヴィン(オーガスト・ウィンター)に任された。
最初に女性全員による投票が行われた。選択肢としては「1、赦す」「2、この地に留まり、男たちと戦う」「3、この場を去る」。結果は1が少なく、2と3が同数。
限られた時間内での解決を図り、最年長のアガタ(ジュディス・アイヴィ)一家と、グレタ(シーラ・マッカーシー)一家の、計8人の祖母、娘、孫、姪たちに考えが任されることに。だが、場を去るとき、「男たちを赦す」の代表格、スカーフェイス・ヤンツ(フランシス・マクドーマンド)が破門のリスクと、信仰による赦しを訴え、信仰心の篤いメンバーに影響を与える。一方、怒りを露にし、闘う姿勢を隠さないのはアガタの下の娘サロメ(クレア・フォイ)やグレタの娘メジャル(ミシェル・マクラウド)。メジャルの姉、マリチェ(ジェシー・バックリー)は戦いたいが、赦さざるを得ないと半ば諦めかけている。アガタの上の娘オーナ(ルーニー・マーラ)は父のわからぬ子を宿し、白熱する会話を静かに聞いている。議題は女性を強姦した若い青年たちへの怒りから、青年を駆り立てた男性のヒエラルキー、見過ごしてきたリーダー、やがてはそういった男性たちを容認してきた自分たちへと向かっていく。誰が悪いのか、何をすべきなのか。
夕方、マリチェの夫が戻ってきた。女たちは最後の決断を迫られることとなる――。
2022年/アメリカ/104分
監督・脚本:サラ・ポーリー 製作:フランシス・マクドーマンド 製作総指揮:ブラッド・ピッㇳ
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル 原作:ミリアム・トウズ
出演:ルーニー・マーラ クレア・フォイ ジェシー・バックリー ジュディス・アイビ シーラ・マッカーシー ミシェル・マクラウド ケイト・ハレット リヴ・マクニール オーガスト・ウィンター ベン・ウィショー フランシス・マクドーマンド
配給:パルコ ユニバーサル映画
この記事を書いた人
邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。
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