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【映画】5/26公開『波紋』不満や黒い感情がスカッとする、笑いと涙の人間ドラマ【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は『波紋』。荻上直子監督の最新作で、筒井真理子さん主演。宗教にハマる主婦のもとに、失踪した夫が帰ってきて、さらに息子の結婚問題も起こる。パート先でも悩まされ……。


失踪した夫の帰宅、息子の恋、自分の人生……小さな波紋が立ち始める

大ヒットした『かもめ食堂』(2006)や生田斗真さん主演の『彼らが本気で編むときは、』(2017)など柔らかな空気で物語を包み込むイメージの強い荻上直子監督が、夫婦間の本音を散りばめながら過度な心労から求める「救い」を描いた社会派ブラックコメディが完成。しかもオリジナル脚本で、映画ファン演劇ファンにはたまらないベテランキャストをずらりと揃えた映画、それが5月26日公開の『波紋』なのです。

主人公の依子は義父の介護疲れもあり新興宗教「緑命会」に入信。日々、祈りを捧げては庭に作り上げた枯山水の手入れをして心穏やかに過ごしていたのですが、長い間、失踪していた夫が帰ってきたことで生活に小さな波が立ち始めます。その上、高額のお金をせがまれ家に居着く夫。更には、息子が障がいのある恋人を家に連れて来たと思ったら「結婚したい」と言い出す始末。宗教に救いを求めるものの、パート先のスーパーではクレーマー客に絡まれる毎日で、依子の我慢は限界を迎えるのです…。

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

感情をセーブしようと宗教に妄信する依子を演じるのは、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』(2016)で主演を務めた筒井真理子さん。彼女が全身で表現する仮面の下に隠した狂気が、物語を不穏な方へと進ませたかと思いきや、光石研さん演じる夫の登場で一気にコメディへと舵が切られます。そしてキムラ緑子さん演じる新興宗教にリーダーとの集会での祈りのダンスや、クレーマーを演じる柄本明さんの現実にも居そうな嫌な老人とのやりとり、さらには同僚を演じる木野花さんの悪魔の囁きなど、どれもが真剣過ぎて、逆に笑いを誘う不思議な魔力を放つ作品。それだけでなく磯村勇斗さん演じる息子の恋人役には、自身も難聴障がいを持つ津田絵理菜さんが務めるなど、当事者俳優をキャスティングしたことも映画への好感度が上がった理由です

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

なにより面白いのは、憎たらしい夫への復讐があまりにも〇〇なので、女性は大爆笑し、男性は恐怖に慄くこと間違いなし。しかもこのエピソードのアイデアは、監督がネットで見つけ出した書き込みを元にしたそう。介護問題、自然災害、宗教問題、人災(人とのトラブル)といった波紋から、夫婦間の波紋だけでなく、障がいに対する偏見はないはずだったのに、息子を思っての発言や考えが親子関係に波紋を生むという脚本が秀逸。日々の不満を依子が変わりに代行してくれ、スカッと笑わせてくれるだけでなく、意外なところでホロっと泣かされてしまう本作は、間違いなく私たちのダークな感情を浄化させてくれる効果がありますよ!
――伊藤さとり

5 月 26 日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開『波紋』

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

【あらすじ】今朝も、須藤依子(筒井真理子)は庭の枯山水に波紋を描く。夫も息子も家を去った家で、一人、ゆっくりと、静かに。依子の信仰する新興宗教が崇める「緑命水」という水の力で、穏やかに過ぎる依子の日々。それを突如乱す出来事が起こる。10年以上も失踪していた夫・修(光石研)が、突然帰ってきたのだ。が、修が手塩にかけていた庭のガーデニングを枯山水にして、緑命水の瓶を部屋中至る所に置き・・・依子は自分の手で、須藤家を修がいた頃とは全く違う家に変えていたのだった。修はその様子に戸惑いながらも、自身ががんであることを打ち明け、高額な治療費のかかる治療への援助を依子に求める。しかし依子は、家族を置き去りにした挙げ句、都合良く帰ってきて金銭を求め、デリカシーのない振る舞いをする修に殺意すら覚えるのだった。そんな折、遠方で就職していた拓哉が恋人・珠美(津田絵理奈)を連れて突然帰ってくる。しかし、珠美は聴覚に障害を抱えており、どうしても珠美を受け入れられない依子は、拭い去れない自身の差別感情に苦悩する。自身の身に次々と降りかかる、自分の力ではどうにも出来ない辛苦と沸き起こる黒い感情。そして更年期を迎えた自身の体の不調。二重苦に苦しみながらも依子は黒い感情を、宗教にすがり必死に理性で押さえつけようとする。どうして・・・でも信じていれば大丈夫・・・。須藤家の中、それぞれから広がる感情の波紋・・・。その波紋がぶつかる時、重なり合う2つの波は時に互いを打ち消し合い、時により高い波を生んでいく。耐え抜いた先にある依子のカタルシスとは―。

監督・脚本:荻上直子
出演:筒井真理子 光石研 磯村勇斗 安藤玉恵 江口のりこ 平岩紙 ムロツヨシ 津田絵理奈 花王おさむ 柄本明 木野花 キムラ緑子
配給:ショウゲート

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

映画『波紋』オフィシャルサイト

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

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邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

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