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【映画レビュー】池松壮亮のジャズ、森田剛の危険な香りに惹き込まれる一夜の物語『白鍵と黒鍵の間に』10/6公開! 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画『白鍵と黒鍵の間に』池松壮亮さん

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は10月6日(金)公開の『白鍵と黒鍵の間に』。冨永昌敬監督と主演の池松壮亮さんは日芸の映画学科の先輩後輩の間柄。昭和の夜の銀座を舞台に、2人のジャズピアニストの思いが描かれる。


池松さん本人の演奏によるジャズは必見必聴!

生粋の映画好き俳優のひとりに池松壮亮さんの名前が上がります。大学は日本大学藝術学部映画科監督コースを選考し、卒業制作で『灯火』という映画を撮ったこともある池松さん。実は同じ大学の先輩にあたる冨永昌敬監督のファンでもあり、ついに念願叶っての主演作となったのが『白鍵と黒鍵の間に』です。

役どころはジャズピアニスト。この話が来た時点で半年かけてピアノを練習し、映画『ゴッドファーザー』(1972)の名曲「愛のテーマ」をマスターし、劇中、音も本人の演奏によるものという大役を成し遂げた池松さん。それまでピアノを触ったのは小学生の時、自主練でマスターした学校での演奏以来だそう。もはやストイックというより役者バカとしか思えないこだわりの役作りが作品を傑作にするエッセンスとなっているのだから、多くの監督からオファーが絶えないのも納得しかないのです。なんなら本人も「役についていろいろ考えるのが楽しいけれど、作品が終わると何にもやることがない」と言っていたから俳優の星に生まれるのは定めだったのでは?とさえ思えるし。

森田剛さん演じる“あいつ”

しかも池松さん演じるジャズピアニストを目指す博の前に突如現れて、「ゴッドファーザー愛のテーマを弾いてくれ」とせがむチンピラ役が森田剛さんというのも似合いすぎてゾクゾクする。毎回、思うのだけれど『ヒメアノ〜ル』(2016)、『前科者』(2022)など、ヤバい役が上手い方。というのもヤバそうなのに目が離せない人物になってしまうのは森田剛という人が醸し出す独特の危険なのに儚そうな香りのせいだと思っています。

高橋和也さん、中山来未さん

昭和63年の銀座のクラブ街という設定は、さらにレトロで幻想的な空間に姿を変え、池松さん以外にも高橋和也さんや川瀬陽太さんなどギター演奏ができる俳優や、サックス奏者の松丸契さんというキャスティングで監督が本物の演奏にこだわったのだと推測します。そこにクリスタル・ケイさんがジャズシンガー役として姿を現し歌い上げたら、一瞬にしてスモーキーな香り漂う大人の映画になってしまう。しかもセッションシーンの余韻は言葉には言い表せない。

ひとりの男の人生の転機を、構成によりミステリーとして見応えある映画に変身させた冨永昌敬監督の手腕が光る本作は間違いなく池松壮亮さんの代表作。時代の移り変わりと人生を変えるタイミングについてシンクロさせたような物語にしばし言葉を失って、ただただ「素晴らしい!」の一言に尽きる傑作なのでした。
——伊藤さとり

☑10月6日(金)テアトル新宿ほか全国公開
『白鍵と黒鍵の間に』

映画『白鍵と黒鍵の間に』池松壮亮さん

【あらすじ】昭和63 年の年の瀬。ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)は、場末のキャバレーバンドで酔客相手に演奏する毎日にすっかり嫌気が差していた。ある晩、店にふらりと現れたチンピラの“ あいつ”(森田剛)にリクエストされて「ゴッドファーザー愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知るよしもなかった。「ゴッドファーザー愛のテーマ」をリクエストしていいのは、界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ。そして演奏を許されているのも、会長の大のお気に入りで、銀座を代表する高級クラブ「スロウリー」と「リージェント」を掛け持ちする敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった……。夜の街を抜け出しアメリカ留学の夢をかなえようとする南、ジャズマンを目指す博、出所したばかりのあいつ、街を支配する熊野会長に、「スロウリー」のバンマス三木(高橋和也)、ピアニストの千佳子(仲里依紗)、「リージェント」のバンマス曽根(川瀬陽太)、シンガーのリサ(クリスタル・ケイ)、南と同じ顔をした浮浪者なども絡んでいく。

 2023/日本/94分
監督:冨永昌敬 脚本:冨永昌敬 高橋知由
出演:池松壮亮
仲里依紗 森田剛
クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太 杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美 佐野史郎 洞口依子 松尾貴史/高橋和也

原作:南博「白鍵と黒鍵の間に」(小学館文庫刊) 
音楽:魚返明未 
配給:ロングライド

Ⓒ2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会

映画『白鍵と黒鍵の間に』オフィシャルサイト

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

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邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

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