• Culture

GLOWの
記事をシェア

【観るべき映画】普通や当たり前なんてないのかもしれない『正欲』公開中! 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は公開中の『正欲』。


朝井リョウさんの原作を映画化

稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、最近、出演作が目白押しの磯村勇斗さん、そして劇団EXILEの佐藤寛太さん、更にNHK連続テレビ小説「おちょやん」の東野絢香さん、5人の主要キャストが見たこともないハーモニーを奏でる衝撃作、それが今回ご紹介する映画『正欲』です。

あれ? 「性欲」ではなく、なんで「正欲」と思うでしょうが、これは朝井リョウさんの原作のタイトルそのままで、きっと朝井さんも思惑があってのこと。思えば人間ならではの欲望に焦点を当てると、果たして人間としての「正しい欲」なんてあるんだろうか、「普通の性欲」ってそもそも何だ?と疑問が浮かびます。だって「フェチシズム」という言葉が存在する通り、人により様々な性的魅力を感じる部位は違うし、そもそも性的な恋愛感情を抱かないアセクシャルというセクシャリティを持つ人だっている。この着眼点を掘り下げて書かれた小説は、第34回柴田錬三郎賞を受賞し、現時点で38万部を突破しています。これを菅田将暉さんとヤン・イクチュンさん共演の『あゝ、荒野』や、有村架純さんと森田剛さん共演の『前科者』などを手掛ける岸善幸監督が映画化したのでした。

映画『正欲』 11月10日(金)公開

普通であることを重んじる、検事の寺井(稲垣吾郎さん)

そうこの作品は、マイノリティ(少数派)と言われる性的指向を持つ人を見つめる物語。しかも主要人物の5人は、環境も性格も性的指向も異なる人々で、稲垣吾郎さん演じる検事の寺井は、不登校の息子に対する妻との考え方の違いに悩む主人公です。そんな彼と後に出会う新垣結衣さん演じる寝具販売員・夏月は、磯村勇斗さん演じる中学の同級生・佳道と再会することで秘密にしていた欲求を打ち明けることに。また東野絢香さん演じる男性が苦手な八重子は、佐藤寛太さん演じる同じ大学のダンスサークルに入っている大也により、ある感情に気づきます。しかも全員、目が離せなくなるほどの圧倒的な存在感で、群像劇としても見応えある作品に。更に自分が全て正しいと思い込んでいる寺井に向けられるセリフの数々は、言い返せないほど痛烈なものばかりで、観客の私達も知っておきたい「有っていい思い」でした。

地元で実家暮らし、寝具店で淡々と働く桐生夏月(新垣結衣さん)

夏月のかつての同級生で転校したが、久しぶりに戻ってきた佐々木佳道(磯村勇斗さん)

ダンスサークルに所属している大学生の諸橋大也(佐藤寛太さん)

大也と同じ大学の神戸八重子(東野絢香さん)

確かに映画同様、たとえ夫婦だろうと分かり合えないこともあれば、恋愛感情を抱かない他人同士でも分かり合えることは実際にもある。そもそも自分のような考えが世間的に多いから、「普通は」と枕詞を付けて考えを語ることで、気づかないうちに誰かを傷つけるんだと伝える映画が『正欲』でした。そうよ、多様性、多様性、って簡単に言うけれど、本当にダイバーシティ(多様性)を願うのなら、他者をおもんばかることが出来ているか、自分の考えを押し付けていないか、自分の言動や行動を見直してみる必要があるんですよね。まずは「普通は」「〜すべき」という言葉を外すことを意識する、それが様々な人と同じ世界で生きている上でのマナーなんじゃなかろうか。自分自身も気をつけないと。
——伊藤さとり

☑TOHOシネマズ日比谷ほかで公開中『正欲』

映画『正欲』 11月10日(金)公開

【あらすじ】
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。異なる背景を持つ彼らの人生がある事件をきっかけに交差する。

2023/日本/134分
監督・編集:岸善幸 
原作:朝井リョウ『正欲』(新潮文庫刊) 
脚本:港岳彦 
音楽:岩代太郎 主題歌:Vaundy『呼吸のように』(SDR)
出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平
渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
製作:murmur
制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給:ビターズ・エンド

ⓒ 2021 朝井リョウ/新潮社 ⓒ 2023「正欲」製作委員会

映画『正欲』公式サイト

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

執筆記事一覧を見る

邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

記事一覧へ戻る

GLOWの記事をシェア!