【社会派映画】9歳の問題児・ベニーは変われるか『システム・クラッシャー』 4/27公開 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】
執筆者:伊藤さとり
脚本・監督のノラは入念にリサーチし映画を完成させた
一体、この子はどうなってしまうのか。
ソーシャルワーカーとせっかく関係を気付けても家族になれるわけではないので、ある程度の距離を保たなければいけない。けれど子どもにはそんなことは関係なくて、好きだから一緒にずっと居たいと思うのは当たり前。私が知っているある児童養護施設の子は、「どうせ(いつか)居なくなる人」と言っていて、確かに本作を見ていると子どもとソーシャルワーカーの距離の保ち方が子どものある感情を刺激すると気付かされるのです。しかしそれも致し方ないことで、ベニーから見える世界は理不尽だらけでしかないのです。
ではベニーの親はどうして児童養護施設にベニーを入れたのか。映画ではある親子のパターンが描かれますが、監督であるノラ・フィングシャイトはこの映画の準備に5年を費やし、児童養護施設、児童精神科、教育支援学校、ケアセンターにも住み込みをし、リサーチを重ねたそうです。
ただひとつわだかまりと共に私がこの映画を監督が撮った意味を強く感じたのは、「この子の幸せの方法」を提示していないこと。物語ならつい目標到達を描きたくなるところを、監督はあえて私たちに問題提起している点です。誰にも肩入れしない脚本と演出によりそれぞれの視点で考えられる本作が、多くの映画賞で賞賛されている理由はそんなことからなんですよね。
——伊藤さとり
☑4月27日(金)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
『システム・クラッシャー』
【あらすじ】嵐のような9歳の女の子ベニー。幼少期、父親から受けた暴力的トラウマ(赤ん坊の時に、おむつを顔に押し付けられた)を十字架のように背負い手の付けようのない暴れん坊になる。里親、グループホーム、特別支援学級、どこに行こうと追い出されてしまう、ベニーの願いはただひとつ。かけがえのない愛、安心できる場所、そう! ただママのもとに帰りたいと願うだけ。居場所がなくなり、解決策もなくなったところに、非暴力トレーナーのミヒャはある提案をする。ベニーを森の中深くの山小屋に連れて行き、3週間の隔離治療を受けさせること……。
2019/ドイツ/125分
監督・脚本:ノラ・フィングシャイト
撮影:ユヌス・ロイ・イメール
音楽:ジョン・ギュルトラー
出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ
原題:Systemsprenger 英題:System Crasher
日本語字幕:上條葉月
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
© 2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF
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この記事を書いた人
邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。
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