光野桃さん「充実した日々だからこそ、立ち止まる時間を大切に」
執筆者:土谷沙織
これから先のわたしへ
「Aging Gracefully」は、40代、50代女性のこれからを応援する、朝日新聞社とGLOWの共同プロジェクト。インタビュー『これから先のわたしへ』では、Aging Gracefullyをテーマに、 憧れの女性像や、一緒に歩んでいきたい相棒アイテム、自分らしくいられるモノやコトなど、わたしの“これから”をお伺いしています。
エッセイスト 光野桃さん
自然、身体、ファッションを通して女性の人生哲学を描く。近刊に『白いシャツは、白髪になるまで待って』(幻冬舎)など。『T JAPAN』webで月に1回ショートエッセイ「百草スケッチ」連載中。
充実した日々だからこそ、立ち止まる時間を大切に
現在66歳のわたしがこれから先の自分に対して想うのは、「残りの人生は、ありとあらゆるものに対する感謝に捧げたい」という一点です。なんとなく ”お返しの時間” に入った感じがするのです。
若い頃は、60代でも70代でも年齢に関係なく、ずっとクリエイションに携わってがんばっていたいと思っていましたが、この年齢になってみると現実はそう簡単ではありません。「こんなはずじゃなかった」と憤ることもありましたが、最近はもう、やられっぱなしだっていいじゃないか、という開き直りの境地です。人生の時間に余裕がない今、もはや格好をつけている場合ではないと気づいたのです。実際に格好つけない自然体の生き方というのは、それはそれで結構大変で苦しさも伴うのですが、でも、やっぱり、その苦しさを通り越したところに何ものにも代え難いよさがある、と実感しています。
人間の弱さを考察し言葉にしたヴァージニア・ウルフに惹かれる
ヴァージニア・ウルフは20世紀モダニズム文学を代表する英国の作家で、後に映画化された『ダロウェイ夫人』『オーランド』などの原作小説を執筆し、59歳で生涯を閉じた。「エッセイ『病むことについて』は、病気に対する思考と考察が本当に素晴らしいです。苦悩とずっとともに歩んできた作家の言葉は、今のわたしにとってシリアスに胸に迫ってくるものがあります」(光野さん)。
写真:Heritage lmage / アフロ
充実する40代だからこそ、心と体をきちんと見詰めなおして
わたしもそうでしたが、40代は色々難しい問題があるにせよ、心身ともに充実していて、やりたいことを思い切りやれる年代です。でもそういう時に病の影がひっそりと忍び寄ってくるもの。わたしも持病を持って思うのは、やっぱり40代で無理をしすぎたということです。仕事も子育ても遊びも、何もかも充実した日々だからこそ、ちょっと立ち止まる勇気は必要。そして、心と体をちゃんと見つめ直す時間を持つといいと思います。
根室で風のように生きる素敵な友人たちの物作りに注目
「北海道の根室と東京を拠点とし、北海道の酪農家などの地元の生産者との関係を深めてお菓子作りをしているVOSTOK laboのふたりの生き方が素敵。クラッカーも根室のフクロウをモチーフにしたクリームサンドも美味しくて。最近ジュエリーのAVMとともに、荒野の中にBURANNという拠点を作りました。時間ができたらすぐにでも訪れたい場所のひとつです」。(光野さん) 写真:VOSTOK labo
取材・文=土谷沙織 ※GLOW2022年8月号より。情報は雑誌掲載時のものになります。
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