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ノーベル賞作家が原作・ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞 映画『あのこと』オードレイ監督と主演のアナマリア・ヴァルトロメイにインタビュー【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回はフランス映画祭で来日中の映画『あのこと』のオードレイ・ディヴァン監督、主演のアナマリア・ヴァルトロメイさんにインタビュー! 公開中で、予定外の妊娠により学業を優先させたいアンヌの3か月を自分のことのように体験できるのでぜひ映画館に出かけてみて。


注目の映画『あのこと』

1960年代、中絶が違法のフランス
予期せぬ妊娠と学位のはざまでのアンヌの選択は……

2022年度ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー(1940年生まれ)の『事件』が原作。ジャーナリスト・脚本家出身のオードレイ・ディヴァンが監督し、いま注目のフランス女優アナマリア・ヴァルトロメイが主演。中絶が違法(医師も罰せられる)だった1960年を舞台に、望まぬ妊娠をした女学生の3ヶ月が描かれる。大学で学ぶ女性も多くはなかった当時、学ぶこと=将来を優先したかったアンヌのたったひとりの奮闘を追体験できる本作は高く評価され、ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞を受賞した。


「監督とともに主人公を探求し、演技観も
変化した作品」――アナマリア・ヴァルトロメイ

伊藤 監督自身も中絶経験がおありと伺いましたが、ノーベル文学賞作家アニー・エルノーさんの原作を映画化しようと思ったきっかけは?

オードレイ監督 自身の経験というよりは、中絶が違法という考えの乱暴なことと、合法であることの二つを映画として並べたかったんです。合法になったとしても中絶をした経験が沈黙に包まれていることには今も昔も変わらないですし、だからこそ私は自分の経験を声にしました。そんな思いを映画にしたかったのです。

伊藤 監督の考えに加え、アナマリアさんの演技が素晴らしくて。役作りについて教えてください。

アナマリア 実際映画を準備している時はフランスはロックダウン中でした。監督とほぼ毎日電話でやり取りをし、色々な映画作品について語りました。ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』やアニエス・ヴァルダの『冬の旅』、『ガールズ』(※ジュスト・ジャカン監督、これらの作品は若い女性の孤独や社会との関わり、抵抗をテーマにしている)など。そんな様ざまな作品からヒントを探りました。その後2週間のリハーサルを経て、60年代のこと、映画を撮る上でのチームワークについて、(妊娠している)体の表現・姿勢や地面の踏ん張り方、アンヌが世の中をどう見ているかなどを構築していきました。なので、実際撮影が始まった時には流れに任せてお芝居することができました。

オードレイ監督 アンヌは後にノーベル賞作家となるアニー・エルノーの女性像だから、主人公アンヌを二人で作っていけるような知的なパートナーを求めていました。それをアナマリアはやってのけてくれました。

アナマリア この監督との出会いは人生の中でいちばん大きな『事件』でしたね(笑)。

オードレイ監督 アンヌは多くを語らない沈黙の多い役で(※笑顔も抑えた演技指導だったそう)、観客が主観的に感じられるよう役者に近い距離での撮影にしたこともあり、よりナチュラルな演技を望んでいました。ですからアナマリアが意見を交換できる知性ある俳優で助かりました。

アナマリア 監督は自分の演技に革命と言っていいほどの大きな変化をもたらしてくれました。主人公について対等な関係で一緒に探求するのは初めての経験でした。他の監督はそうさせてくれなかったりするので新鮮でした。監督に頼ってもいいし、この人は味方だなと感じました。厳しくもあり自由にさせてくれたので、色々と提案もしました。

女学生の中でも抜き出て成績が良かったアンヌ。60年代の衣装も可愛くて注目

「中絶のことよりも、女性が自由を選択できる
ことに重きを置きました」――オードレイ監督

伊藤 映画では妊娠することで、女性のキャリアが奪われてしまうことも伝えていましたね。

オードレイ監督 原作を読み、女性の自由に重きを置いているところが気に入っています。「私は中絶しました」と言葉にすることだけでも一歩前に踏み出せて自由になれている。小説にも映画にも出てきますが、子どもを拒否しているのではなく、心の準備が整った時に産む選択をする自由も大切だと思います。

アナマリア 日本は中絶したい時にパートナーの同意が必要と聞きましたが本当ですか?

伊藤 基本的には同意書にパートナーのサインが必要です。

アナマリア それは自分の体が自由ではないということですよね。

オードレイ監督 そうすると、日本では男性はこの映画をあまり観たいと思わないのかしら?

伊藤 男性にも観てもらいたいですよね。

オードレイ監督 この映画を作った理由は性別、年齢を超えて妊娠について中絶の必要性について分かってほしいし経験してほしいからなんです。妊娠や中絶は女性の話、男性は関係ないと言われますが、男性たちにも知ってほしいし知ってもらう必要があると思っています。

アナマリア 映画に出る前から中絶には賛成だし、守るべき権利だと思います。この映画を色々な国でPRしてきて、国によっての様ざまな状況があること、そして合法であっても他人の目を気にしたり、恥を伴うことだったり、パートナーの同意が必要だったりすると知りました。

オードレイ・ディヴァン監督:1980年、フランス生まれ。2008年から脚本家として活躍し、『Mais vous êtes fous』(原題/2019)で監督デビュー。監督2作目となる『あのこと』で、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、英国アカデミー賞、セザール賞、ヨーロッパ映画賞、ルミエール賞など数々の栄誉ある賞にノミネートされ、世界的にその名を知られる。新作は主演レア・セドゥで『エマニエル夫人』。製作と脚本も担当する。

「自分自身を大切にすることが
輝きにつながるんですね」――伊藤さとり

伊藤 もっと自由に女性が選択できる社会になって欲しいですね。さて、雑誌GLOWのテーマにちなみ、お二人が自分を輝かせる為に心がけていることはなんですか。

オードレイ監督 自分自身でいられる勇気を持つこと。嫌なことははっきり「イヤ」と言うこと、そして嫌がられたりしても「私は私!」でいることですね。

アナマリア 私はまだ道半ば。自分をどのように受け入れていくか、受け入るためには様々な経験を重ね、そして自分を好きになることが必要だと思っています。

伊藤 ヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットは素敵でしたよ。

アナマリア 映画祭は恥ずかしがるようなタイミングではないし、私もテンションが上がっているし、小さく内向きになるような時ではなかったんですが、日によっては今日のコンディションで撮影されたくないな、イベントに出かけたくないなと思うことも実はありましたね。

伊藤 そんな時の克服方法はありますか。

アナマリア 私は思春期ではなく大人になってニキビが出るみたいで。友人のデザイナーのショーに出た時に顔にニキビがあって、もうファンデーションを塗っていてマスカラも落ちそうなくらい泣きそうで。撮らないで!と言いたい気持ちでした。後から考えたら、無理せずに「今日はごめん」と言えるよう自分を大事にする勇気を持てばよかったと思いました。

伊藤 『あのこと』のアンヌもそうですが、自分自身を大切に、その時々で自分にとって大事な選択をすることがその先の輝きに繋がりますね。今日はありがとうございました!

この後、オードレイ監督、アナマリアさん、さとりさんはBunkamuraル・シネマで行われた初日舞台挨拶へ。トークではオードレイ監督が、「制作資金を集めるのに苦労しましたが、各国の映画祭で受賞したことでフランス以外でも上映することができた」とスピーチ。アナマリアさんも「映画は答えを出すものではなく、質問を投げかけるもの。この映画が皆さんにどんな疑問を投げかけるのか興味津々です」とヒットを願いました。オードレイ監督も「アニー・エルノーが歩んだ道は自由獲得への道です。皆さんもこの映画を通してどのように自由を獲得していくのかを考えてみてください」と挨拶。
中絶以外でも、更年期障害で退職したり職場にいづらくなったり、昇進など女性が自由に人生を歩めるように考え方や制度が変わりつつある今。アンヌのような強さを持ちたいと思わされました。

アナマリア・ヴァルトロメイ:1999年、ルーマニア生まれ。12歳の時のデビュー作『ヴィオレッタ』(11)は写真家である母親に幼い頃にヌード写真を撮られた女優のエヴァ・イオネスコが、自らの経験を元に監督した問題作。その後『ジャスト・キッズ』(19)、ジュリエット・ビノシュ主演の『5月の花嫁学校』(20)などに出演。『あのこと』で、セザール賞最優秀新人女優賞、ルミエール賞、2022年のベルリン国際映画祭でシューティング・スター賞を受賞するなど、今後が期待される若手俳優のトップに。


絶賛公開中『あのこと』

【あらすじ】アンヌは貧しい労働者階級に生まれたが、飛びぬけた知性と努力で大学に進学し、未来を約束する学位にも手が届こうとしていた。学ぶことも夜遊びもして、輝く毎日を送っていたが、大切な試験を前に妊娠が発覚し、狼狽する。中絶は違法の60年代フランスで、アンヌはあらゆる解決策に挑む。

Buknamuraル・シネマほか全国順次公開中

2021/フランス/100分
監督・脚本:オードレイ・ディヴァン
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール、アナ・ムグラリス、ファブリツィオ・ロンジョーネ
音楽:エフゲニー・ガルペリン&サーシャ・ガルぺリン 撮影:ロラン・タニー 衣装:イザベル・パネッティエ
原作:アニー・エルノー『事件』(ハヤカワ書房)

配給:ギャガ
Ⓒ2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - WILD BUNCH -SRAB FILMS

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

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邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

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