一人っ子政策で揺らぐ、自分の人生と家族の選択　映画『シスター夏のわかれ道』【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は中国映画『シスター夏のわかれ道』。今日や週末の予定に加えてみてください！

一人っ子政策時代に生まれた
アン・ランの人生の決断を描く

中国映画を観ていると時々、耳にする「一人っ子政策」という言葉。それは人口増加を防ぐために夫婦につき子どもはひとりという、1979年から始まり2015年には撤廃した驚くべき政策です。

この映画『シスター夏のわかれ道』の主人公アン・ランもそんな時期に生まれた女の子で、男の子を欲しがった両親のせいで健康なのに脚が悪いと政府に嘘の訴えをし、その後、弟が生まれたことで両親と疎遠になってしまった長女です。まさに「一人っ子政策」と「家父長制」が生んだ悲劇。それでもアン・ランは看護師として働きながら医者になる為に北京の大学院に入ろうと自力で頑張っていた矢先、両親が交通事故で亡くなり、残された幼い弟ズーハンの面倒を見るよう親族一同に言われるのです。もしそうなったら北京の大学院で学ぶことも、医者になることも断念せざるを得ない。アン・ランはズーハンを養子に出そうとするのですが、一緒に生活しているうちに愛着が湧き始めます……。

自分の人生を諦めてまで、姉として弟の面倒を見なければいけないのか？　これって子育てや親の介護にも言えることで、女性だから家族の世話をするのは当たり前なのか？ということにも繋がります。更に社会問題になっているヤングケアラーを一体、誰が支えるのか？ということも描かれているんですよね。果たしてアン・ランが夢を追う為に弟を養子に出すのは非道なのか？　中国では公開時にSNSで議論が生まれ、ハリウッド大作を抜いて大ヒットを記録しました。

いや、もう涙が止まらないんですよ。弟役のダレン・キムくんが憎たらしいほどワガママなのに、ドラえもんのタケコプター付き帽子を被ってお姉ちゃんを一生懸命探す姿に涙、涙。この手を離しちゃいかん！って思いながらもアン・ランのぼんぼん彼氏にイラッとして「医者になったれ！」と応援したくなるし。アン・ラン演じるチャン・ツィフォンもこの映画で多数の映画賞を受賞したけれど、ダメ叔父演じたシャオ・ヤンもまたいい味出していてそのダメっぷりに何故か泣けてくるんです。涙で浄化作用抜群な大傑作、これは見ないと損ですよ！

『シスター夏のわかれ道』

【あらすじ】看護師として働くアン・ランは、医者になるために北京の大学院進学を目指していた。ある日、疎遠だった両親を交通事故で失い、見知らぬ6歳の弟・ズーハンが突然現れる。望まれなかった娘として、早くから親元を離れて自立してきたアン・ラン。一方で待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハン。姉であることを理由に親戚から養育を押し付けられるが、アン・ランは弟を養子に出すと宣言する。養子先が見つかるまで仕方なく面倒をみることになり、両親の死すら理解できずワガママばかりの弟に振り回される毎日。しかし、幼い弟を思いやる気持ちが少しずつ芽生え、アン・ランの固い決意が揺らぎ始める…。自分の人生か、姉として生きるか。葛藤しながらも踏み出した未来への一歩とはー。

新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開中
2021年／中国／127分

監督：イン・ルオシン　脚本：ヨウ・シャオイン
出演：チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム

配給：松竹
© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved

監督も脚本も女性が手掛けた。写真はイン・ルオシン監督。

シスター夏のわかれ道　公式サイト

この記事を書いた人

伊藤さとり映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

執筆記事一覧を見る

邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ愛の告白100選』（KADOKAWA）。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

記事一覧へ戻る

GLOWの記事をシェア!

一人っ子政策で揺らぐ、自分の人生と家族の選択 映画『シスター 夏のわかれ道』【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

『シスター 夏のわかれ道』

一人っ子政策で揺らぐ、自分の人生と家族の選択　映画『シスター夏のわかれ道』【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

『シスター夏のわかれ道』