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ボクサーのケイコが自分の居場所を見つけるための心の旅……12/16公開・映画『ケイコ 目を澄ませて』【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

執筆者:伊藤さとり

映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は岸井ゆきのさん主演の『ケイコ 目を澄ませて』。週末の予定に加えてみてください!


多くの言葉は出てこないけど、
しっかり伝達や交流を感じられる

私は[岸井ゆきの]という役者が好きなのです。なんでだろう?と思うと『愛がなんだ』の“お友達的存在感”というか、今年公開された『犬も食わねどチャーリーは笑う』みたいな“妻の裏側”に親近感というか、とにかく映画でよくある絶対に有り得ないファンタジー的な恋愛映画の主人公ではない“存在のリアル”を体現する役者さんだから。

そんな[岸井ゆきの]さんの映画史を間違えなく塗り替える映画が、今回紹介する『ケイコ  目を澄ませて』です。まさに人間の尊厳とは「気高さ」なんだと実感するほど主人公・ケイコは清くカッコ良く、更には自分自身が忘れがちな「会話」の本質に気づかされる映画だったんです。

まず、主人公のケイコ(岸井ゆきの)は耳が聞こえないプロボクサー。彼女は小さなボクシングジムで日々トレーニングに励んでいたのですが、ある日、ジムが閉鎖されることを知ります。彼女にとっては唯一、信頼しているジムの会長(三浦友和)の元を離れるなんて考えられず、驚きを隠せないものの、会長はなんとかケイコの次の居場所を見つけようと様々なジムに連絡を取り付けようとするのですが…。

会長は手話が出来るわけでもなく、ケイコに対してしっかりと口を動かし、口の形で思いを伝えます。そんな会長の顔をまっすぐ見てケイコは言葉を読み取り、交流しながらトレーニングを続けていきます。そこには声を発し合う言葉は存在せずとも「伝えよう」とする意思、「聴こう」とする意思がしっかりと映っているのです。もちろんケイコは手話も出来るので弟とは手話で会話をしています。だから映画には多くの言葉は登場しないけれど、多くの感情が流れ合って交流しています。実は「会話」って話すとか聴くとかではなく、「相手の言葉に耳を澄ませて、その言葉から自分が感じたことをしっかり返す」というキャッチボールなんですよね。たとえボクシングに興味がなくても、この映画のショットひとつに胸が震えるのは、真摯な心の交流だから。間違いなく来年の映画賞を席巻することでしょう『ケイコ  目を澄ませて』は。


12月16日公開『ケイコ 目を澄ませて』

【あらすじ】嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書きとめた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出す――。

聴覚障害と向き合いながら実際にプロボクサーとしてリングに立った小笠原恵子さんをモデルに、彼女の生き方に着想を得て、『きみの鳥はうたえる』の三宅唱が新たに生み出した物語。ゴングの音もセコンドの指示もレフリーの声も聞こえない中、じっと<目を澄ませて>闘うケイコの姿を、秀でた才能を持つ主人公としてではなく、不安や迷い、喜びや情熱など様々な感情の間で揺れ動きながらも一歩ずつ確実に歩みを進める等身大の一人の女性として描き、彼女の心のざわめきを16mmフィルムに焼き付けた。そして本年2月に開催されたベルリン国際映画祭でプレミア上映されるやいなや「すべての瞬間が心に響く」「間違いなく一見の価値あり」と熱い賛辞が次々に贈られ、その後も数多く国際映画祭での上映が続いている。

12月16日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開

監督:三宅唱 脚本:三宅唱、酒井雅秋
出演:岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中島ひろ子、仙道敦子
ボクシング指導:松浦慎一郎 手話指導:堀康子、南瑠霞 手話監修:越智大輔
原案:小笠原恵子『負けないで!』(創出版)

配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

映画『ケイコ 目を澄ませて』公式サイト

この記事を書いた人

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー 伊藤さとり

映画評論・映画パーソナリティ・心理カウンセラー

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邦画、洋画問わず年間500本以上の映画を鑑賞。映画舞台挨拶や完成披露会見等のMCを数多く担当している。また、心理学的な視点からも映画を解説。12月に新著は『映画のセリフで心をチャージ 愛の告白100選』(KADOKAWA)。「ぴあ」、「otocoto」でのコラム連載や、YouTube「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」、「めざましテレビ」「ひるおび」での映画コーナー等、幅広いメディアで映画を紹介。映画と、映画に関わる全ての人々を愛してやまない映画人。

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